一般内科医が解説する:睡眠薬の成人と高齢者における使い方の違い、使い分けのポイント

医療

 「眠れない」という悩みは年代を問わず多いですが、睡眠薬の適切な選び方は年齢・状況によって大きく異なります。

特に高齢者では、一般成人と同じ感覚で処方すると、予期しない副作用が起こることがあります。

そのため不眠症の診断・治療は専門科(神経内科や精神科)で行うことが理想的ですが、患者数が多く、専門外来だけで対応するのには限界があるのが現状です。

そのため、かかりつけ医から睡眠薬を処方されているケースも多く見られますが、処方内容が本当に適切かどうか、判断が難しい場合もあります。

本稿では、一般内科医の視点から最新の知見をもとに、かかりつけ医で対応できる範囲と、専門科を受診すべき状況について解説します。

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睡眠薬は「万能薬」ではない

不眠症に対する薬物療法は、あくまで「補助的な手段」です。

国内外のガイドラインでは、まず認知行動療法(CBT-I)——睡眠習慣の見直し、刺激制御法、睡眠制限法などを組み合わせた非薬物療法——が第一選択とされています。薬は補助として使うのが原則です。

薬を使う場合も、一般成人と高齢者とでは、選ぶべき薬の種類・用量・使用期間が大きく異なります。

特に「従来型の睡眠薬(ベンゾジアゼピン系・Z薬:ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン)」は、高齢者には原則として使わない方向に、世界標準が変わってきています。

【大切なポイント】睡眠薬を服用中の方、または今後服用を検討している方は、「どの薬を飲むか」だけでなく、「いつまで飲むか」「どうやめるか」についても、主治医とあらかじめ相談しておくことが重要です。

成人と高齢者での使い分け

まず、成人(65歳未満)と高齢者(65歳以上)で、推奨される治療戦略がどう違うかを整理します。

一般成人(65歳未満)

選択肢の幅が広い

  • CBT-Iを優先する
  • 短時間型ベンゾジアゼピン系薬も選択肢に入る
  • オレキシン受容体拮抗薬が増えてきた
  • 通常2〜4週間から開始し効果・副作用を評価
  • 長期使用する場合は週2〜4回の間欠投与を検討

高齢者(65歳以上)

より慎重なアプローチが必要

  • CBT-Iが第一選択(対面・デジタルどちらも有効)
  • ベンゾジアゼピン系・Z薬は原則避ける
  • 薬が必要な場合は低用量・短期間のみ
  • 漸減中止を常に念頭に置く
  • 多剤併用の確認が必須

高齢者で「昔からある睡眠薬」を避けるべき理由には、明確な数値があります。

転倒・骨折リスクが2倍以上に上昇。Z薬の一つゾルピデム(マイスリーなど)では股関節骨折のリスク比が3.11倍(95% CI 1.96–4.91)というデータがあります。

認知機能障害(記憶障害・見当識障害・混乱)のオッズ比は4.78倍(95% CI 1.47–15.5)。特に後日「あのころ何を飲んでいた?」と気づきにくいため注意が必要です。

せん妄(急性の意識混濁・混乱状態)のリスク上昇。術後のベンゾジアゼピン系薬使用でオッズ比3.0倍(95% CI 1.3–6.8)。入院中の高齢者では特に注意が必要です。

加齢による代謝・薬物感受性の変化。若い頃と同じ用量でも、体内での薬の濃度が高くなりやすく、副作用が出やすくなります。

こうした背景から、米国老年医学会(AGS)の「Beers Criteria」(高齢者に注意が必要な薬のリスト)では、65歳以上へのベンゾジアゼピン系薬・Z薬(ゾルピデム、ブロチゾラムなど)の使用を避けることが推奨されており、使用する場合でも90日未満に限定することとされています。

日本の現状:国内では依然としてベンゾジアゼピン系薬・Z薬が多く処方されています。「長年飲んでいるから安全」という認識は正しくありません。

もし現在服用中の場合は、自己判断で急にやめず、主治医に相談して少しずつ減らすことが大切です(急な中止は離脱症状を起こすことがあります)。

高齢者に使える薬はあるのか?

薬が必要な場合、高齢者でより安全とされているのは以下の選択肢です(ただし、いずれも完全に安全とは言えず、短期使用が原則です)。

  • オレキシン受容体拮抗薬——後述の新しい睡眠薬の分類。高齢者でもベンゾジアゼピン系薬より安全性が高いとされています。
  • ラメルテオン(ロゼレム)——メラトニン受容体に働く薬。依存性がなく高齢者にも処方しやすいが、効果は穏やかです。「時差ぼけを治す薬」というイメージです。

なお、トラゾドン・ミルタザピン・メラトニンについては、高齢者の不眠症に対する十分なエビデンスがなく、現時点では推奨を支持するデータが不足しています。

注目の新薬:オレキシン受容体拮抗薬4剤の整理

「覚醒を維持するオレキシンという物質の働きをブロックして眠りやすくする」という新しい作用機序の薬が近年増えています。依存性がなく、自然な睡眠構造を維持しやすいのが特徴です。

2020年発売 商品名:ベルソムラ(スボレキサント)

成人20mg・高齢者15mg/日。高齢者用量設定があり比較的使いやすい。最も処方経験が豊富。

覚醒を抑えて自然な眠りへと導く薬です。効果発現まで1〜2時間かかります

飲んですぐベッドに行くのではなく、ベッドに行く1-2時間前に飲んでから少しリラックス時間を設けていくなどの工夫が必要です、

2020年発売 商品名:デエビゴ(レンボレキサント)

通常5mg・最大10mg/日。高齢者でも用量調整不要(ただし慎重に)。入眠・睡眠維持双方に効果のエビデンスがあります。

寝付かせ効果があるので、飲んですぐにベッドに行く使い方で問題ありません。ただ少し翌朝に残りやすいという意見もあります。

2024年承認  商品名:クービビック(ダリドレキサント)

通常50mg・状態に応じ25mg/日。欧米でも承認済み(海外名QUVIVIQ)。国内発売は2024年12月より。

デエビゴと比べて、効果が切れるのが速く翌朝に残ることが少ないとされています。中途覚醒をすることもありますが、頻度は少ないとされています。

2025年承認 商品名:ボルズィ(ボルノレキサント)

通常5mg・最大10mg/日。2025年8月承認の最新オレキシン受容体拮抗薬です。高齢者でも非高齢者と比べて血中濃度が上昇しにくく、翌朝への持ち越し効果が少ないとされています半減期が約2時間と非常に短いため、効果が速やかに切れる反面、中途覚醒が起こる可能性があります。

ベルソムラ以外の3剤共通の注意点:就寝直前に服用。食事直後は吸収が遅れるため避けること。CYP3A4を阻害する薬(抗真菌薬、一部の抗生物質、カルシウム拮抗薬など)との飲み合わせに注意。

他の不眠症治療薬との併用時の有効性・安全性は確立されていません。

注意点:読んだ後に心がけてほしいこと

  • 1:ベンゾジアゼピン系・Z薬を飲んでいる高齢者(またはそのご家族)へ
  • 急に中止しないでください。急な中止は不眠の悪化・不安・けいれんなどを引き起こすことがあります。必ず主治医に相談の上、少量ずつ減らしていきましょう。
  • 2:「市販の睡眠薬」にも注意
  • 市販の睡眠補助薬の多くは抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミンなど)を含み、翌日の眠気・認知機能への影響があります。高齢者が継続的に使うのは避けた方が無難です。
  • 3:新薬=全員に良いとは限らない
  • クービビック・ボルズィは新しい薬ですが、長期安全性データはまだ限られています。既存薬に比べてエビデンスが少ない点も念頭に置く必要があります。
  • 4:睡眠薬の前に「生活習慣」の見直しを
  • 起床・就寝時刻の固定、寝室の光・温度・スマートフォン管理、日中の適度な運動など、非薬物的アプローチが睡眠改善の土台です。

担当医への一言:「この薬はいつまで飲めばいいですか?」「やめる方法を教えてください」——この2つの質問を次の受診時にぜひ尋ねてみてください。薬の管理は処方した医師と患者が一緒に考えるものです。

どこまで一般内科で管理できる?専門科に紹介すべき状況とは?

一般内科医でもできること

内科医が診断・治療できる範囲

まず「本物の慢性不眠症」かどうかを確認します。

週3回以上、3ヶ月以上にわたって「寝つけない」「夜中に目が覚める」「早朝に目が覚める」などが続き、日中の疲労・集中力低下・気分の落ち込みを伴う場合が慢性不眠症です。

診断は主に問診で行い、内科医でも十分に判断できます。

治療の柱は「睡眠についての考え方と習慣を変えること(CBT-I)」です。

薬よりも長く効き、副作用も少ない方法として、認知行動療法(CBT-I)が第一選択です。

内科医でも外来で提供でき、週1回・6〜8週間のセッションが目安です。対面が難しければ、ウェブ上でも同等の効果が得られるプログラムがあります。

CBT-Iの具体的な内容は「決まった時間に起きる」「布団の中で眠れない時間を減らす」「眠れないことへの不安な考え方を修正する」などです。

実際には、かかりつけ医が外来で時間をかけてCBT-Iを実施するのは容易ではありません。

まずは受診時に「眠れないときはどうすればいいですか?」と一言聞いてみることから始めましょう。

薬が必要なときも、内科医が処方できます。

CBT-Iで十分な効果が得られない場合、患者さんと相談のうえで薬を使います。

前述したように、高齢者でも依存性が低く安全性の高いオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント・レンボレキサントなど)が選択肢として使いやすくなっています。

一方、市販の睡眠補助薬に含まれる抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)やメラトニン、トラゾドンは、有効性に乏しいか副作用の懸念があるため積極的にはお勧めしません。

また以前からよく使われているベンゾジアゼピン系・Z薬を最初に使うのは避けるべきでしょう。


専門医(睡眠専門医)に紹介するケース

以下に当てはまる場合は、睡眠専門医への紹介を検討します。

  1. 内科での治療を試みても改善しない場合 CBT-Iや薬物療法を適切に行っても効果が乏しいとき。
  2. 別の睡眠障害が疑われるとき 「いびきが激しい・呼吸が止まると言われる(睡眠時無呼吸症候群の疑い)」「脚がむずむずして眠れない(むずむず脚症候群の疑い)」などがある場合。これらは不眠症と似た症状を示しますが、治療法がまったく異なります。
  3. 診断が不確かで、通常の治療が効かない場合 問診だけでは原因が特定できず、睡眠の専門的な検査(睡眠ポリグラフ検査など)が必要と判断したとき。

まとめ

不眠症についての一般的なアプローチ法から、睡眠薬の特性について解説しました。

不眠症の多くは内科医が診断から治療まで対応できます。ただし「治療しても改善しない」「睡眠中に呼吸が止まるなど別の病気が疑われる」場合は、専門医と連携して原因を掘り下げることが重要です。

不眠症から、生活習慣病が悪化することも指摘されています。「眠れないだけ」と思わず、将来の健康を守るためにも不眠症に対してしっかりアプローチすることが重要です。

眠れない悩みは我慢せず、まずはかかりつけの内科医に相談してみてください。

かかりつけに相談・治療をしても困難な場合は、専門科による治療も検討しましょう。

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参考文献・資料

1. AGS Beers Criteria® for Potentially Inappropriate Medication Use in Older Adults. J Am Geriatr Soc. 2023.

2. Sateia MJ et al. Clinical Practice Guideline for the Pharmacologic Treatment of Chronic Insomnia in Adults. J Clin Sleep Med. 2017;13(2):307-349.

3. Donnelly K et al. Benzodiazepines, Z-drugs and the risk of hip fracture. PLOS ONE. 2017.

4. Kline CE et al. Safety profile of hypnotics or sedatives on community-dwelling older adults aged 75 or older in Japan. Int J Geriatr Psychiatry. 2024.

5. デエビゴ錠 添付文書(第10版). エーザイ株式会社. 2025年12月改訂.

6. クービビック錠 添付文書. ネクセラファーマジャパン株式会社. 2024年9月承認.

7. ボルズィ錠 添付文書(第2版). 2025年11月改訂.

8. ベルソムラ錠 添付文書. MSD株式会社.

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