マダニに刺されたらどうする?症状・予防・病院に行くべき判断基準を内科医が解説【2026年版】

医療

「山でハイキングをした翌日、皮膚に黒いものがくっついていた」

「庭の草むらで作業をしていたら、小さな虫に刺された跡がある」

そのとき、あなたはどう対処しますか?

マダニは、蚊やアブとは違う「刺され方」をします。気づかないうちに何日間も皮膚に食い込み、血を吸い続けます

そして一部のマダニは、重篤な感染症を引き起こすウイルスや細菌を持っています。

「刺されたかも」と気づいたとき、何をすべきで何をしてはいけないか。内科医の立場から、最新の情報をもとに整理します。


まず知っておきたい:マダニは「家にいるダニ」とまったく別物

「ダニ」と聞くと、布団やカーペットにいる目に見えない小さな虫を想像する方が多いと思います。

しかしマダニはまったく別の生き物です。

  • 大きさ:吸血前でも3〜8mm程度。肉眼ではっきり見えます。吸血後はさらに膨らんで、1cm以上になることもあります
  • 生息場所:森林・草むら・藪・農地のあぜ道・民家の裏山・裏庭など。屋外の自然環境に生息しており、家の中にはほとんどいません
  • 吸血の仕組み:皮膚に鋸状の口器を深く突き刺し、「セメント物質」を分泌して強固に固定します。そのため、ちょっと触れたくらいでは外れません
  • 感じにくい理由:麻酔作用のある唾液を注入するため、刺されても痛みやかゆみをほとんど感じません。気づかないうちに数日間吸血されていることがあります

吸血してパンパンに膨らんだマダニは、皮膚に張り付いた白いイボや黒い血豆のように見えます

「これなんだろう、血豆かな?」と受診される方が実際に多くいます。


どこで刺される?「自分には関係ない」は危険です

マダニに刺されるのは「登山者だけ」ではありません。以下のような場所・状況で誰でも刺されるリスクがあります。

  • ハイキング・登山・キャンプ
  • 農作業・畑仕事・庭の草むしり
  • ゴルフ場・河川敷での散歩
  • 草むらの多い公園や土手のそば
  • 犬や猫の散歩(ペットがマダニを持ち帰り、そこから刺されるケースも

マダニが特に活発になるのは春から秋(4〜10月)で、梅雨前後と秋の2回ピークがあります。ただし一年中生息しており、冬の感染例も確認されています。

近年の変化:SFTSは以前「西日本中心の感染症」とされていましたが、2025年以降は北海道・東日本でも感染例が増加しており、全国どこでも発生しうる感染症になっています。


マダニに刺されたとわかるのはどんな状態?

刺されている最中(吸血中)

  • 痛みやかゆみはほとんどない(だから気づかない)
  • 皮膚に小さな虫がくっついて離れない
  • 触るとわずかな硬さや膨らみを感じる
  • 刺し口の周囲が赤く腫れることもある

マダニが付きやすい体の場所

皮膚の柔らかい部分を好む傾向があります。屋外活動の後は以下の場所を重点的に確認してください。

足から這い上がってくることが多いので、付け根にあたる股、脇、膝近くなどがマダニのポイントです。

  • わきの下・鼠径部(足の付け根)
  • 手首・膝の裏
  • 胸の下・腹部の柔らかい部分
  • 頭部(髪の毛の中)・耳の周囲
  • 太もも・ふくらはぎの内側

蚊・ブヨ刺されとの見分け方

蚊・ブヨマダニ
刺された直後すぐかゆくなるほぼ無症状
虫の有無虫はその場にいない虫本体が皮膚に固着している
見た目赤い腫れ・膨らみ黒い点・イボ・血豆のように見える
取れるか虫はすぐ飛ぶ・離れる引っ張っても外れない
持続時間数分〜数時間数日〜10日以上

刺された後に出る感染症の症状:特に注意すべきは3つ

マダニが病原体を持っていた場合、刺された直後ではなく数日〜数週間後に症状が出ます。このタイムラグが「マダニに刺されたこと」と「体調不良」を結びつけにくくする原因です。

①SFTS(重症熱性血小板減少症候群):最も注意が必要

SFTSウイルスによる感染症で、致死率16〜30%と非常に高く、現時点では特効薬がありません。

  • 潜伏期間:6日〜2週間
  • 主な症状:高熱・強い倦怠感・食欲低下・吐き気・嘔吐・下痢
  • 特徴的な点:皮疹が出ない、意識障害が起きやすい(ぼんやりする・呼びかけへの反応が鈍い)
  • 流行時期:5〜10月(ピークは5〜6月)
  • 注意:感染した猫・犬などのペットの体液からも感染した例があります

②日本紅斑熱:抗菌薬が効く、ただし放置は危険

リケッチアという細菌による感染症です。致死率は約0.9%で、適切な抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)で治療できます。

  • 潜伏期間:2〜8日
  • 主な症状:突然の高熱・頭痛・全身に広がる赤い発疹(手のひら・足の裏にも出る)
  • 特徴的な点:刺し口(痂皮=かさぶた状の傷)が見つかることがある
  • 流行時期:4〜10月、西日本から東日本に拡大傾向

③ツツガムシ病:マダニではなくツツガムシが原因

厳密にはマダニではなく「ツツガムシ(恙虫)」という別のダニが媒介します。ただし症状が似ているため、あわせて知っておくことが重要です。

以前は伊豆七島病ともいわれ、伊豆諸島の離島でよく見られていました。

  • 潜伏期間:5〜14日
  • 主な症状:発熱・頭痛・発疹・刺し口(鼠径部・わきの下に好発)
  • 特徴:抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)で治療可能
  • 流行時期:北日本は春夏、南日本は秋冬に多い

3疾患の比較一覧

SFTS日本紅斑熱ツツガムシ病
原因ウイルス細菌(リケッチア)細菌(リケッチア様)
皮疹出ない出る(手足含む)出る
意識障害起きやすい少ない少ない
致死率16〜30%約0.9%低い(治療すれば)
抗菌薬効かない(ウイルス)効く効く
抗菌薬の種類ドキシサイクリン・ミノサイクリンドキシサイクリン・ミノサイクリン

内科医からひと言:マダニに刺されているのがはっきりしている+皮疹がないのはSFTSを疑う、皮疹があるなら日本紅斑熱を疑う——という鑑別の基本を頭の片隅に置いておくと、受診の際に医師に症状を正確に伝えやすくなります。


病院に行くべき判断基準:3つの状況

状況①:マダニが皮膚にくっついている → 今すぐ受診

マダニが皮膚に付いているのを発見した場合、絶対に自分で引き抜こうとしてはいけません。

無理に引き抜くと以下のリスクがあります。

  • 口器が皮膚の中に残って化膿する
  • マダニの体液が逆流して感染リスクが上がる

受診先:皮膚科または外科で除去・洗浄の処置を受けてください。緊急性は高くありませんが、発見したその日か翌日の受診が理想です。

状況②:マダニに刺された(またはその疑い)→ 2週間は体調を観察

マダニに刺されたこと自体は、必ずしも感染症を発症するわけではありません。マダニがすべて病原体を持っているわけでもありません。

ただし刺された後2〜3週間は体調の変化に注意してください。以下の症状が出た場合はすぐに受診が必要です。

  • 38度以上の発熱
  • 強い倦怠感・食欲低下
  • 吐き気・嘔吐・下痢
  • 全身の発疹
  • 頭痛・意識がぼんやりする

受診する際は必ず「マダニに刺された(または刺されたかもしれない)」と伝えてください。いつ・どこで屋外活動をしたかの情報が、医師にとって診断の重要な手がかりになります。

状況③:屋外活動後に発熱 → 念のため伝える

マダニに刺されたことに気づいていなくても、屋外活動(山歩き・農作業・ガーデニングなど)の後2週間以内に原因不明の発熱が続く場合は、受診時にその活動歴を医師に伝えてください。

SFTSは採血結果で「血小板・白血球が減少し、CRP(炎症の指標)が低い」という特徴的なパターンがあり、通常の感染症と異なる血液検査の結果が診断のヒントになります。


今すぐできる予防対策:これだけ覚えてください

屋外活動前の準備

  • 長袖・長ズボンを着用:シャツの裾はズボンの中に入れ、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる。肌の露出を最小限に
  • 明るい色の服を選ぶ:マダニが目視で確認しやすくなる
  • 帽子・手袋・タオルで首を覆う:頭部・頸部も忘れずに
  • 虫除けスプレーを使用:ディート(DEET)またはイカリジン成分を含む製品が有効。ただしマダニの付着を完全には防げないため過信は禁物

屋外活動後の帰宅時

  • ペットのマダニチェックも忘れずに:犬・猫がマダニを持ち帰り、そこから人に感染するケースが近年増加しています

まとめ:「大げさかな」より「念のため伝える」が正解

  1. マダニは肉眼で見えるサイズ。屋外活動後は全身をチェックする習慣を
  2. 刺されても痛みやかゆみがないため気づきにくい。「血豆のようなもの」が取れなければマダニを疑う
  3. くっついているマダニを自分で引き抜いてはいけない。皮膚科・外科へ
  4. 刺された後2〜3週間は体調観察。発熱・倦怠感・発疹があれば受診。「マダニに刺されたかもしれない」と必ず伝える
  5. SFTSは特効薬がなく致死率が高い。予防が最大の治療と心得る

「山に行かないから関係ない」という時代ではありません。庭仕事・ペットの散歩・公園での活動でも刺されるリスクがあります。

特に60代以上の方は重症化しやすいとされているため、屋外活動の多い方は日頃から予防を意識してください。


参考資料

  • 厚生労働省「ダニ媒介感染症について」(2025年改訂版)
  • 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「マダニ対策、今できること」(2025年8月改訂)
  • 国立感染症研究所「SFTS最新動向調査」(2024年)
  • 日本感染症学会「リケッチア感染症の診断と治療ガイドライン」(2023年改訂)

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