物忘れが増えてきた…それ、MCIかもしれません|認知症予防と最新治療薬を内科医が解説【2026年版】

医療

「最近、人の名前がすぐに出てこない」

「鍵や財布をどこに置いたか、しょっちゅう忘れる」

「同じ話を繰り返していると家族に言われた」

こうした経験が増えてきたとき、多くの方は「歳のせいだから仕方ない」と片づけてしまいます。しかし、その物忘れが軽度認知障害(MCI)のサインかもしれません。

2023〜2024年にかけて、MCIの段階で使える新薬が相次いで保険収載されました。

つまり早期に気づいて受診することの価値が、今まさに格段に上がっています。

この記事では、物忘れとMCIの違い、認知症予防のエビデンス、そして最新薬まで、一般内科医の立場から正確にお伝えします。


結論

  1. 物忘れにも「正常な老化」と「MCIのサイン」があり、日常生活に支障が出るかどうかが分岐点
  2. 認知症の最大45%は予防または発症遅延が可能(Lancet 2024委員会)
  3. MCIの段階で使える新薬(レケンビ・ケサンラ)が登場し、早期発見が「治療できるかどうか」を左右する時代になった

「ただの物忘れ」と「MCI」:何が違う?

最初に整理しておきたいのが「加齢による物忘れ」と「MCI(軽度認知障害)」の違いです。

正常な加齢による物忘れは、あとから思い出せたり、日常生活には支障がないことが特徴です。

たとえば「あの俳優の名前、なんだっけ」と一瞬出てこなくても、しばらくしたら思い出せる。これは正常の範囲です。

一方MCIとは、認知機能の低下が客観的な検査で確認されるものの、日常生活の基本的な機能はまだ保たれている状態です。認知症の一歩手前にあたります。

MCIのサインとなる物忘れの特徴

  • 以前なら容易に覚えていた重要な情報(予定、電話の内容、関心のある出来事)を忘れる
  • 神経心理学的検査(HDS-RやMMSEなど)で、年齢・教育レベルと比べて明らかな低下が認められる(通常、正常平均から1.5標準偏差以上の低下)
  • 本人や家族は「何かおかしい」と感じているが、初対面の人には気づかれにくい
  • ただし、買い物・料理・外出といった基本的な日常生活動作は保たれている
正常な老化MCI認知症
物忘れの程度軽微(あとで思い出せる)中程度(重要なことを忘れる)高度(直前のことも忘れる)
検査での低下なしあり(客観的に証明される)明確にあり
日常生活への支障なし基本的にはなし支障あり(自立が困難)

重要なのは、MCIは必ずしも認知症に進行するわけではないという点です。

正常に戻ることも、MCIと正常の間を行き来することもあります

だからこそ早期の対応が意味を持ちます。

MCIの有病率:どのくらいの人がいる?

MCIの有病率は60〜64歳で約6.7%、65歳以上では10〜20%、80〜84歳では約25%と報告されています。

国内では認知症とMCIを合わせると推定1,000万人規模とされており、これは決して他人事ではありません。


認知症にはどんな種類がある?

認知症は一つの病気の名前ではなく、さまざまな原因で認知機能が低下した状態の総称です。主な種類は以下の4つです。

  • アルツハイマー型認知症:最も多く、認知症全体の約6割を占める。脳内にアミロイドβというタンパク質が蓄積することが主な原因とされる
  • 血管性認知症:脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因。高血圧・糖尿病の管理が予防に直結する
  • レビー小体型認知症:幻視(実際にないものが見える)や歩行障害を伴うことが多い
  • 前頭側頭型認知症:性格変化や言語障害が目立つことが多く、比較的若年で発症することもある

このうち後述する新薬(レケンビ・ケサンラ)が対象となるのはアルツハイマー型に限られます。

自分(または親)のMCIがどのタイプかによって治療方針が変わるため、専門医での正確な診断が重要です。


【2026年最新】MCIに使える新薬が登場:レケンビ・ケサンラとは?

ここ数年で認知症治療は大きな転換点を迎えました。従来の認知症治療薬は「症状を和らげる」薬でしたが、新しく登場した2剤は「病気の原因に直接働きかける」薬です。

なぜ新薬が画期的なのか

アルツハイマー病では、アミロイドβというタンパク質が脳に何年もかけて蓄積し、神経細胞を傷つけていくことが発症の引き金とされています。これをいわば「脳の中にたまったゴミ」とするなら、新薬はそのゴミを掃除する働きをします。

2剤の比較

レケンビ(レカネマブ)ケサンラ(ドナネマブ)
保険収載2023年12月2024年11月
投与スケジュール2週間に1回の点滴4週間に1回の点滴(最大18か月)
進行抑制効果(試験結果)約27%抑制約29%抑制
対象MCI〜軽度アルツハイマー型認知症MCI〜軽度アルツハイマー型認知症
特徴アミロイドβとプロトフィブリルを標的アミロイドβプラークのみを標的。短期間でプラークが消失しやすい

重要な注意点:これらは「治す薬」ではなく、「進行を遅らせる薬」です。症状が改善したり、認知症の進行を完全に止めたりする薬ではありません

また、副作用として脳の浮腫や微小出血(ARIA)が起こることがあり、定期的なMRI検査が必要です。


薬を使えるのは「誰」か?条件と受診の流れ

「自分(の親)はこの薬を使えるのか」という疑問が最も多く聞かれます。以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

保険適用の3条件

  1. 病期の条件:アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症であること。中等度以降に進行した場合は対象外(神経細胞がすでに大きく失われており、アミロイドβを除去しても十分な効果が期待できないため)
  2. 検査の条件:アミロイドPET検査または脳脊髄液検査で、脳内にアミロイドβが蓄積していることが確認されること
  3. 施設の条件:専門医が常勤する限られた医療機関でのみ処方可能。一般のクリニックでは処方できない

費用の目安

薬価は1回あたりおよそ14〜15万円程度で、3割負担の方なら1回あたり4〜5万円前後が自己負担になります。

レケンビの場合は2週間に1回投与となるため、月8~10万円前後の自己負担となります。

ただし高額療養費制度が適用されるため、所得区分によっては実質負担が大幅に下がります。

マイナンバーカードを健康保険証として使うことで、認定証の提示なく自動的に上限額が適用されます。

現実的な受診の流れ

  1. かかりつけの内科・家庭医に相談:「物忘れが気になる」と伝えるだけでOK。簡易的な認知機能検査(HDS-R、MMSEなど)を行う
  2. もの忘れ外来・脳神経内科・精神科へ紹介:必要に応じてかかりつけ医から紹介してもらう
  3. 認知症疾患医療センターでの精密検査:アミロイドPET検査、脳MRI、脳脊髄液検査などにより正確な診断と薬の適否を判断

認知症の45%は予防できる:Lancet 2024の最新エビデンス

薬の話と同じくらい重要なのが予防です。2024年に更新された国際的な委員会(Lancet委員会)の報告は、認知症研究における重要な指針となっています。

14の修正可能なリスク因子に取り組むことで、世界の認知症の最大45%が予防または発症を遅らせることができると推計されています。

日本国内のデータ解析では38.9%が理論上予防可能とされており、特に寄与が大きい因子として難聴(6.7%)・運動不足(6.0%)・高LDLコレステロール(4.5%)が挙げられています。

14のリスク因子一覧

ライフステージ修正可能なリスク因子
若年期(〜45歳)教育不足
中年期(45〜65歳)難聴未治療、高血圧、肥満、過度の飲酒、頭部外傷、大気汚染、高LDLコレステロール
高年期(65歳〜)喫煙、うつ病、身体不活動、糖尿病、社会的孤立、視力障害未治療

内科医として特に強調したいのは、このリスク因子の多くが高血圧・糖尿病・脂質異常症といった、かかりつけ内科で管理できる生活習慣病と重なっている点です。

健診で引っかかったものを放置せず、きちんと治療することが認知症予防にも直結しています。

予防に最もエビデンスが強い:血圧管理

数ある予防法の中で、現時点で最も強い臨床エビデンスを持つのが血圧管理です。

SPRINT MIND試験では、収縮期血圧を120mmHg未満に厳格管理することで、MCIの発症が有意に減少したことが示されています。

「血圧は心臓や腎臓だけでなく、脳も守る」と理解してください。

毎日の塩分管理をプロに任せるのも一つの手です👇

複数の健康習慣を組み合わせると効果が倍増

特に注目すべき研究があります。

良質な食事・認知活動・定期的な身体活動・適度な飲酒・非喫煙の4〜5つの健康習慣を同時に実践している高齢者は、0〜1つしか実践しない人と比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが60%低下したと報告されています。

また、食事・運動・認知トレーニング・血管リスク管理を組み合わせたFINGER試験でも、2年間で実行機能・処理速度・記憶が有意に改善することが示されました。

「一つのことを完璧にする」より「複数を無理なく続ける」ことが重要です。


今日から始める「脳を守る5つの習慣」

1. 週150分の中強度有酸素運動(早歩きでOK)

2025年Lancet誌に掲載されたレビュー論文は、運動が認知症予防の最も強力な処方箋の一つであることを再確認されました。

「早歩き」程度の中強度運動を週150分(1日20〜30分を週5日)続けるだけで、将来の認知症リスクを大きく下げられる可能性があります。特別な器具も施設も不要です。

2. 難聴を放置しない

難聴は認知症リスクへの寄与が最も大きいリスク因子の一つです(国内データで6.7%)。

「年だから聞こえが悪くなって当然」と思わず、補聴器の使用も含めて耳鼻科に相談することを勧めます。

聴こえが改善されると、脳への刺激と社会参加が回復します。

以下のような集音器でも予防になる可能性があります。

ミミクリア スタイリッシュな集音器で、もっと豊かに聴こえる毎日を。【Cearvol】

3. 血圧・血糖・コレステロールをきちんと管理する

「健診で引っかかったけどまだ薬は必要ないと言われた」という状態でも、放置は禁物です。

高血圧・糖尿病・脂質異常症はいずれも認知症の主要なリスク因子です。

かかりつけ医との定期的なフォローで、血管をきれいに保つことが脳を守ることに直結します。

4. 人とのつながりを意識的に保つ

中年期・高年期を通じた社会的な交流が認知症リスクの低下と関連しています。

趣味のサークル、地域の集まり、家族との会話——どんな形でもよいので、「人と話す機会」を日常に組み込むことが大切です。

5. 睡眠の質を大切にする

睡眠不足や睡眠障害は認知症リスクの上昇と関連しています。特に閉塞性睡眠時無呼吸症候群(いびきが強い・日中眠い)は見落とされがちですが、治療により認知症発症リスクが下がる可能性が示されています。

「眠れない」「いびきがひどい」は内科やかかりつけ医に相談してください。


受診の目安:このような物忘れは要注意

以下のうち2つ以上あてはまる場合は、かかりつけの内科またはもの忘れ外来への受診をおすすめします。

  • 同じ話を繰り返していると家族に指摘される
  • 大切な約束や用件を忘れてしまう
  • 財布・鍵などの置き忘れが増え、探し回ることが多い
  • 日付・曜日がわからなくなることがある
  • 以前できていた手順(機器の操作、料理の手順)で戸惑うことが増えた
  • 言葉がすぐに出てこず、会話がスムーズでなくなってきた

「まだ大丈夫」と思っていても、MCIの段階で発見されれば今や薬による治療も選択肢になります。早期受診が治療できるかどうかの分岐点です。怖がらず、まずかかりつけ医に相談してください。


まとめ

  1. 物忘れの「正常な老化」と「MCI」の違いは、日常生活への支障と客観的な検査で判断する
  2. MCIは必ずしも認知症に進行しないが、アルツハイマー型MCIには新薬(レケンビ・ケサンラ)が使える段階になった。早期発見の価値が以前より格段に高い
  3. 認知症の最大45%は生活習慣の改善で予防・遅延可能。血圧管理・運動・難聴対策・社会参加・睡眠が特にエビデンスが強い
  4. 複数の健康習慣を組み合わせることで、発症リスクが最大60%低下するという研究がある
  5. 気になる物忘れがあれば、まずかかりつけ内科に相談。「まだ大丈夫」より「念のため確認」が今の時代の正解

参考資料

  • Petersen RC, et al. Mild cognitive impairment. Arch Neurol. 1999;2009(MCI定義・分類)
  • Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024.
  • SPRINT MIND Investigators. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia. JAMA. 2019.
  • FINGER試験(フィンランド多領域介入研究)Lancet. 2015.
  • 厚生労働省「アルツハイマー病の新しい治療薬について」(レカネマブ・ドナネマブ最適使用推進ガイドライン)
  • 東京都健康長寿医療センター「軽度認知障害(MCI)」(2024年)

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