「熱が出た」「胃が痛い」「胸が苦しい」――
日々の生活の中で、私たちは自分の体調と相談しながら過ごしています。
「少しお腹が痛いけど、寝れば治るかな」
「熱はあるけど、仕事を休むほどではないし……」
こうした迷いは誰にでもあるものです。
しかし、いざ病院へ行こうと決めるには、意外とエネルギーが必要です。
「大したことなかったら申し訳ない」
「長く待つのが嫌だ」
そう感じて受診をためらう方も多いでしょう。
さらに、受診しても
「現時点でははっきりしないので様子を見ましょう」
と言われると、「行った意味がなかった」と感じてしまうこともあります。
確かに、「必ずこの状態なら受診すべき」という絶対的な基準はありません。
ただし、症状の出方や強さによって、ある程度の判断は可能です。
今回、現役の内科医の視点から、「受診を迷った時の判断基準」と「病院に行くことで得られる本当のメリット」を解説していきます。


【判断基準】その症状、危険サイン=レッドフラッグではありませんか?
医学の世界には、危険サイン=「レッドフラッグ(赤旗)」という言葉があります。
これは「命に関わる重大な病気が隠れている可能性があるサイン」のことです。
以下の表を参考に、でている症状をまず確認してみましょう。
| 症状のジャンル | 様子を見て良い目安(グリーン) | すぐに受診すべきサイン(レッドフラッグ) |
| 痛み(頭・胸・腹) | 我慢できる範囲、徐々に和らぐ | 「経験したことがない」激痛、冷や汗を伴う |
| 発熱 | 食事や水分が摂れ、会話ができる | 意識がぼんやりする、水分が全く摂れない |
| 呼吸 | 階段で少し息が切れる程度 | じっとしていても苦しい、横になれない |
| その他 | 軽いめまい、一過性のしびれ | 顔・体の半分が急に動かない、言葉がもつれる |
これら「レッドフラッグ」に当てはまる場合は、休日や夜間であっても迷わず医療機関に連絡して、受診も検討しましょう。
「大げさかもしれない」という遠慮は不要です。
症状の出方に注意:本当の突然は危険なサイン
患者さんの多くが「急に痛くなった」と表現しますが、この「急に」は人によって意味が異なります。
医学的に注意すべき「本当の突然」とは、
- 痛みが最初から最大レベルで出る(0→10)
- 発症した瞬間の状況をはっきり覚えている
といった特徴があります。
一方で、
「なんとなく違和感があって徐々に強くなった」場合は、必ずしも緊急性が高いとは限りません。
本当に危険な突然発症は、主に以下の4パターンです:
- 詰まる(血管閉塞など)
- 破れる(出血)
- 裂ける(解離など)
- 捻じれる(臓器のねじれ)
いずれも緊急性の高い病態です。
これらについて、より詳しく解説した記事はこちらです。よければご覧ください
→賢い患者への道 第3回 本当の突然とは?その症状は危険?or 安全?

病院は「正解」だけを探す場所ではない
多くの人が病院にかかる目的として「病名を特定し、薬をもらう場所」と考えています。
もちろんそれも正解ですが、内科医の本音を言えば、もう一つの重要な役割があります。
それは 重篤な病気を否定すること(悪い病気ではないことを確認すること) です。
ここで一つ、たとえ話をしましょう。
【たとえ話:車のチェックランプ】
あなたの車のダッシュボードに、見たこともない警告灯が点灯したとします。
「たぶん接触不良だろう」と放置して高速道路に乗るのは怖いですよね。整備工場へ持っていき、「エンジンに異常はありませんよ。ただのセンサーの誤作動です」と言われれば、安心して運転を続けられます。
病院もこれと同じです。検査の結果、「異常なし」とわかることは、決して無駄足ではありません。それは「これからも安心して生活して良い」という証明書を受け取ることなのです。
病院で行う血液検査やレントゲン、CT検査などは、目に見えない体の内部を「可視化」し、大きなトラブルが起きていないかを確認するためのツールです。
病院で「わかること」と「できること」
一例として内科を受診した場合を考えてみましょう。
すると、具体的に以下のようなステップであなたの不安を解消していきます。
- 問診: いつから、どこが、どのように痛むのか。医師はあなたの言葉から「病気のパズル」を組み立てます。
- 身体診察: 胸の音を聴く、お腹を触る、喉を見る。これだけでも情報の半分以上が得られます。
- 検査: 血液で炎症や臓器の数値を調べ、画像で形に異常がないかを確認します。
- 治療方針の決定: 時間経過で改善する病気なのか、治療をしないと悪化する病気なのか、薬が必要か、生活制限は必要か、あるいは専門の診療科(外科や循環器科など)に紹介すべきかなどを判断します。
最近は「ネットで調べて不安になった」という受診も増えていますが、これも十分に正当な理由です。
専門家の「大丈夫」という判断には、医学的な裏付けがあります。ネット情報をうのみにしないことも大事です。
ネットで書いてあることと専門家(診察した医師)の判断が違った場合は、まずその専門家(診察した医師)の判断理由を確認しましょう。納得できないようなら、セカンドオピニオンも検討できるようになります。
病気の診断には、時間がかかったり、一つの病院だけでは診断ができない場合もあります。
現状の整理と今後の見通しを確認していくことが大事です。

日中の診療と休日夜間診療の違い
医療は24時間対応していますが、役割は異なります。
日中の診療
- 検査の選択肢が多い
- 精密検査や紹介がスムーズ
- 原因の特定まで進めやすい
→ 原因をしっかり調べたい場合はこちらが基本
夜間・休日診療
- 緊急性の判断が中心
- 検査は必要最低限
- 応急対応が主目的
→ 「今すぐ危険か」を判断する場
そのため、
「待ち時間が少ないから」という理由だけで利用すると、十分な評価が受けられないこともあります。
医師にうまく伝えるための「3つのコツ」
診察時間は限られています。緊張してうまく話せなかった……という後悔を防ぐために、受診前に以下の3点をメモ(またはスマホに入力)しておきましょう。
- いつから、どんなふうに?: (例:3日前から、キリキリと、波がある痛み)
- きっかけや関連症状は?: (例:食事の後に痛くなる、吐き気もある)
- 一番困っていること・聞きたいこと: (例:仕事に行けるか知りたい、癌ではないか不安)
特に3番目の「何が不安か」を伝えてもらえると、医師はそれに応えるための検査や説明を重点的に行うことができます。
また症状が続いている場合、なぜ本日病院に来た理由も伝えてもらうと対応しやすくなります。
例えば、症状が悪化したから、仕事への支障が出たから、仕事の休みが今日だったから等です。
まとめ:体からのサインを無視しないで
体調不良は、あなたの体が発信している「休んでほしい」「気づいてほしい」というメッセージです。
「この程度で……」と思わずに、まずは近所のかかりつけ医に相談してみてください。早期発見に勝る治療はありません。
あなたの健康を守る第一歩は、自分の感覚を信じ、適切なタイミングでプロの助けを借りる勇気を持つことから始まります。

行動への提案
- 「レッドフラッグ」の表を保存しておく: 家族の急な体調不良時にも役立ちます。
- 近所のかかりつけ医を決めておく: 困ったときに「とりあえずあそこへ行こう」と思える場所があるだけで、心理的負担は激減します。
- 「異常なし」を喜ぶ: 検査の結果、何も見つからなかったら「ラッキー!健康の太鼓判をもらった」と前向きに捉えましょう。
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