心電図に異常:健診でいわれたときに考えること、内科医が解説 第2回:脚ブロック、軸偏位

健診・検診関連

心電図で異常があります

健康診断の結果説明の時に、このようなことを言われた経験はありませんか。

心電図=心臓の検査異常→重病

このように思われる方も多いと思います。

健診の心電図検査で「異常あり」と判定されると、多くの受診者は強い不安を感じます。

しかし、実際には治療が不要な「正常範囲内の個人差」も多く含まれています。

今回、内科医の視点から健診でよく指摘される心電図異常について解説していきます。

大前提から、過度に心配しないでよい所見から、専門医の診察・追加検査が望ましいものまでお伝えしていきます。

今回2回目として、「脚ブロック」と「軸偏位」について解説していきます。

結論:健診で指摘されたら?

健診心電図で脚ブロックや軸偏位が認められた場合、まず症状の有無器質的心疾患の有無房室ブロックへの進行リスクを確認していきます。

完全右脚ブロック単独、単独の左脚末端(前枝だけ、後枝だけ)ブロック無症候性の場合経過観察が基本です。

左軸偏位を伴う二束ブロック(完全右脚ブロック+左脚前枝ブロックまたは後枝ブロック)でQRS幅>120msの場合は、

房室ブロックへの進行リスクがあるため循環器専門医への紹介も考慮します。

軸偏位とは?(電気の向きの傾き)

心臓全体に電気が流れるとき、全体で「どっちの方向に一番強く電気が流れているか」を指します。

通常、電気は左斜め下(胃の方)に向かって流れます。

具体的な数値で表すと軸の角度の正常範囲は-30°~90°までは正常軸とされています。

  • 左軸偏位(さじくへんい):電気が通常より「上(左肩方向)」に向いています。高血圧で心臓の筋肉が厚くなっている(心肥大)場合や、肥満などで横隔膜が押し上げられているときに見られます。数値上では-30°より左側に変化しています。
  • 右軸偏位(うじくへんい):電気が「右(右脇腹方向)」に向いています。痩せ型の人や、肺の病気、あるいは右側の心臓に負担がかかっているときに見られます。数値上は90°より右側に変化しています。

原因は心臓の筋肉量の変化、伝導の異常、心臓の位置の変化(痩せ、肥満、横隔膜の位置が変化するとき)が考えられます。

これらは「心臓の向きや立ち位置の個性」だけであることも多いため、数値のズレだけで即病気とは診断されませんが、参考となる所見になる場合があります。

脚ブロックとは?(配線の渋滞)

心臓は電気信号によって動いています。その電気を通す専用の道路を「脚(きゃく)」と呼びます。

右側を通るのが「右脚」、左側を通るのが「左脚」です。

  • どんな状態?道路が工事中や通行止めになり、電気がスムーズに通れず「回り道」をしている状態です。
  • 右脚ブロック(うきゃくブロック):比較的健康な人にも多く見られます。右側の道路は細いため、生まれつきや加齢で回り道になりやすい構造になっています。多くの場合、経過観察で問題ありません。
  • 左脚ブロック(さきゃくブロック):左側は心臓のメインポンプを動かす太い道路です。ここにブロックがある場合は、心筋梗塞や心不全などの背景が隠れている可能性があるため、さらに検査を追加することが多いです。

たとえ話:高速道路の車線規制

「3車線のうち1車線が規制(ブロック)されても、他の車線から目的地(心臓の収縮)には辿り着けます。ただ、少し到着が遅れる(波形が伸びる)だけ」というイメージです。


脚ブロックの評価と対応

完全右脚ブロック(CRBBB)

比較的よくみられる変化であり、健康な人でもあります。多くは無症状で経過観察で良いとされています。

2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドラインでは、完全右脚ブロックで心室性期外収縮がなく運動で2度以上の房室ブロックが出現せず無症候性の場合には運動制限の必要性はありません。

ただし、左軸偏位を伴う場合には房室ブロックに進行する場合もあり、より経過観察が大事になります。

左脚ブロック(左脚は前枝、後枝にわかれます)

心臓の病気が隠れていることもあり、注意が必要です。

同ガイドラインでは、左脚ブロック器質的心疾患がなく経過観察中に2度モビッツII型以上の房室ブロックへの進行を認めなければ運動制限は必要ないとされています。

二束ブロックの評価

2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドラインでは、心電図で二束ブロック(完全左脚ブロック(左脚前肢+後枝ブロック)、あるいは完全右脚ブロックに左脚前枝ないし後枝ブロックを伴う場合でQRS幅>120ms=0.12秒、心電図の小さいマス3つ以上)を有する原因不明の失神患者では、

しばしば発作性房室ブロックをきたし、高い死亡率(特に突然死)との関連が知られていると記載されています 。

完全右脚ブロックに左脚前枝ブロックまたは後枝ブロックを伴う場合が二束ブロックに該当しますが、左脚前枝ブロックは左軸偏位左脚後枝ブロックは右軸偏位として心電図上認識されます。

軸偏位+1つのブロックと見えても、実は二束ブロックであるということに注意が必要です。

具体的な検査項目と評価内容

12誘導心電図での評価

QRS幅の測定が重要であり、二束ブロックの定義としてQRS幅>120ms=心電図の小さいマス3つ以上が用いられます。

軸偏位との関係では、左軸偏位を伴う完全右脚ブロック=右脚ブロック+左脚後枝ブロックのことがあり、房室ブロックへの進行リスクがあります。

ホルター心電図での評価

房室ブロックが記録された場合の診断では、可逆的原因(薬剤性など)や生理的要因、背景疾患(睡眠呼吸障害など)の検索が推奨されます。

夜間就寝中の副交感神経優位に伴う1度房室ブロックやウェンケバッハ型2度房室ブロックは生理的なものであり、経過観察とされています。

心エコー図検査(TTE)

モビッツII型2度房室ブロック、2:1房室ブロック、発作性房室ブロック、高度房室ブロック、完全房室ブロックが認められた場合は、経胸壁心エコーを行います。

器質的心疾患が疑われる場合、例:心筋症(心アミロイドーシス、心サルコイドーシス、ヘモクロマトーシス、ファブリー病など)、心内膜炎、成人先天性心疾患の評価が必要になってきます。

運動負荷心電図検査

2:1房室ブロックなど、ブロック部位が明らかでない場合に運動負荷心電図検査を考慮することが推奨されます。

運動負荷によってブロックが出現・増悪する場合は、房室結節より遠位のブロックと判断されます 。

心臓電気生理学的検査(EPS)の適応

不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版では、2枝または3枝ブロックにおいて、

電気生理検査でヒス束以下の伝導障害が証明された場合にペースメーカー植込みが考慮されます。

2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドラインでは、二束ブロックを有する原因不明の失神患者において、

EPSでHV時間70ms以上あるいはペーシングや薬剤負荷(I群抗不整脈薬)で2~3度房室ブロックが誘発された場合には、ペースメーカ治療の推奨クラスI適応とされています 。

非侵襲的検査でブロック部位を同定できない場合に、心臓電気生理学的検査を考慮していきます。

循環器専門医への紹介基準

症状を伴う場合

めまい、ふらつき、失神などの症状がありさらに徐脈だった場合は、循環器専門医への紹介を検討します。

二束ブロックの場合

完全右脚ブロックに左軸偏位を伴う場合(完全右脚ブロック+左脚前枝ブロック)や、完全右脚ブロック+左脚後枝ブロックでQRS幅>120msの場合は、房室ブロックへの進行リスクがあるため、

循環器専門医へ紹介し、器質的な心疾患の除外やペースメーカー留置の可能性などを検討してもらいます。

交代性脚ブロック

右脚ブロックと左脚ブロックが交互に出現する交代性脚ブロックは、完全房室ブロックに進行する可能性がきわめて高いため、ペースメーカー植込みを考慮します。

器質的心疾患が疑われる場合

心エコー図検査などで器質的心疾患が疑われる場合は、循環器専門医へ紹介します。

まとめ:軸偏位と脚ブロックの臨床上の注意点

完全右脚ブロック単独、左脚末端のブロック(前枝ブロック、後枝ブロック)単独で、かつ無症候性の場合は、基本経過観察でよいとされます。

経過観察していくうちに、ほかの変化が出てくるようであれば検査を追加していきます。

左軸偏位を伴う二束ブロックの場合は房室ブロックへの進行リスクがあるため、定期的な心電図検査による経過観察が重要です。

失神などの症状を伴う場合や、運動負荷心電図で房室ブロックが出現・増悪する場合は、速やかに循環器専門医へ紹介していきます。

軸偏位単独、脚ブロック単独で指摘されることもあると思いますが、この段階では治療法がありません。また特に病的な意義もまだありません

その変化に対して原因となる心疾患があるかどうか、検査をしたことがないようであれば、一度は心臓超音波検査やホルター心電図などを検討しても良いと思います。

循環器専門医へ緊急の紹介が必要な状況でなければ、あわてる必要はありません。

もし健診で指摘されても慌てず、主治医と相談して検査するか経過観察するかを落ち着いて考えましょう。

情報源

  • 日本循環器学会:循環器疾患の診断と治療に関するガイドライン
  • 日本心電学会:心電図検定公式テキスト

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