胃のあたりの不快感、胸やけ、痛み。多くの方がまず「市販の胃薬」を手に取ると思います。
では、市販の胃薬と、病院で出される胃薬は何が違うのでしょうか。「市販薬は弱い」「病院の薬のほうがよく効く」と考えている方も多いですが、実際の違いは「成分」よりも「量」と「使い方」にあります。
この記事では、代表的な市販薬であるガスター10(ファモチジン)を例に、市販薬と処方薬の違いを、添付文書の内容をもとに消化器内科医の視点から解説します。
※2026年10月時点の添付文書などの情報にもとづいています。
結論
- 市販の胃薬の多くは、病院の薬と同じ成分を使っています
- 違いは1回の量、1日の上限、使ってよい期間です
- ガスター10は1回10mg・1日2回まで。病院では胃潰瘍などに1回20mgを1日2回使うことがあります
- 市販薬は3日飲んで良くならなければ相談、2週間を超えて続けないのが決まりです
- 黒い便、体重減少、飲み込みにくさなどがあれば、市販薬で様子を見ずに受診してください
市販薬と処方薬の基本的な違い
| 項目 | 市販薬 | 処方薬 |
|---|---|---|
| 入手方法 | 薬局・ドラッグストアで購入 | 医師の診察と処方箋が必要 |
| 目的 | 一時的な症状をやわらげる | 診断した病気を治療する |
| 量 | 安全を優先し、少なめに設定 | 病気や腎臓の働きなどに合わせて調整 |
| 使用期間 | 短期間(ガスター10は2週間まで) | 病気に応じて数週間〜長期 |
| 費用 | 全額自己負担 | 健康保険が使える |
胃薬の主な種類
| 種類 | 主な働き | 主な成分 | 市販薬 | 処方薬の例 |
|---|---|---|---|---|
| H2ブロッカー | 胃酸を抑える | ファモチジン、ニザチジンなど | ガスター10、アシノンZなど(第1類医薬品) | ガスター(ファモチジン)など |
| PPI(プロトンポンプ阻害薬) | 胃酸を強く抑える | ランソプラゾール、エソメプラゾールなど | 主に処方薬 | タケプロン、ネキシウムなど |
| P-CAB | 胃酸を強く、速く抑える | ボノプラザン | 処方薬のみ | タケキャブ |
| 制酸薬 | 出た胃酸を中和する | 炭酸水素ナトリウム、水酸化マグネシウムなど | 総合胃腸薬に配合されていることが多い | 処方薬にもある |
| 粘膜保護薬 | 胃の粘膜を守る | テプレノン、レバミピドなど | テプレノン配合の市販薬などがある | セルベックス、ムコスタなど |
| 消化管運動改善薬 | 胃の動きを整える | モサプリド、ドンペリドンなど | 市販薬は生薬配合の胃腸薬が中心 | ガスモチン、ナウゼリンなど |
以前よく使われていたH2ブロッカーのラニチジン(ザンタック)は、2019年に不純物の問題で出荷停止・回収となりました。古い情報で目にすることがありますが、現在は使われていません。
ガスター10と病院のガスターの違い
ガスター10の有効成分は、病院で処方されるガスター(ファモチジン)と同じです。違いを添付文書で比べてみます。
| 項目 | 市販薬:ガスター10 | 処方薬:ガスター錠 |
|---|---|---|
| 区分 | 第1類医薬品(薬剤師から説明を受けて購入) | 医療用医薬品 |
| 1回量 | 10mg(1錠) | 胃潰瘍・十二指腸潰瘍・逆流性食道炎など:20mg/急性胃炎など:10mg |
| 1日の回数 | 2回まで(8時間以上あける) | 1日2回(就寝前に1回にまとめる方法もある) |
| 1日量の目安 | 最大20mg | 胃潰瘍などでは40mg |
| 対象年齢 | 15歳以上80歳未満 | 医師が判断 |
| 使用期間 | 3日で良くならなければ相談。2週間を超えて続けない | 病気に応じて医師が決める |
| 腎臓の働きが落ちている場合 | 自己判断での調整はできない | 腎機能に応じて量や間隔を調整する |
同じ成分でも、病院では病気を治すための量を、腎臓の働きなどを見ながら使います。市販薬は、誰が飲んでも安全なように量と期間を絞った設計になっています。
市販薬では治せないもの:ピロリ菌と胃潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因として多いのが、ピロリ菌と、ロキソニンなどの痛み止め(NSAIDs)です。
市販の胃薬で痛みがやわらいでも、ピロリ菌がいれば潰瘍は再発しやすく、胃がんのリスクも残ります。ピロリ菌の除菌は、胃酸を抑える薬と2種類の抗菌薬を7日間飲む治療で、医師の処方が必要です。
ピロリ菌が心配な方は、検査を受けておくと安心です。郵送でできる検査キットもありますが、胃の症状がある方は、キットではなく医療機関を受診してください。
症状別:市販の胃薬の選び方の目安
市販の胃薬は種類が多く、どれを選べばよいか迷うと思います。症状に合わせたおおまかな目安です。
| 症状 | 向いている成分の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 胸やけ、みぞおちの痛み、酸っぱいものが上がってくる | H2ブロッカー(ガスター10など) | 胃酸を抑える。3日飲んで良くならなければ相談 |
| 食べすぎ・飲みすぎによる胃もたれ | 消化酵素、健胃生薬、制酸成分を含む総合胃腸薬 | 原因がはっきりしている一時的な症状向け |
| 胃が荒れている感じ、胃の不快感 | 粘膜保護成分(テプレノンなど) | 胃の粘膜を守る |
| 強い腹痛、吐き気・嘔吐、下痢、発熱 | 市販の胃薬は向かない | 胃腸炎や、胃以外の病気の可能性。受診を |
迷ったときは、症状を薬剤師に伝えて選んでもらうのが確実です。第1類医薬品(ガスター10など)は、薬剤師から説明を受けて購入する決まりになっています。
胃薬を飲むタイミング
胃薬は、製品によって「食前」「食後」「食間」「症状が出たとき」など、飲むタイミングが違います。箱や説明書の指示を必ず確認してください。
- 食前:食事のおよそ30分前
- 食後:食事のあと、およそ30分以内
- 食間:食事と食事の間(食後およそ2時間)。「食事中」という意味ではありません
ガスター10は、胃痛や胸やけなどの症状が出たときに飲み、2回目を飲む場合は8時間以上あけます。
病院で胃薬を長く飲んでいる方へ
逆流性食道炎や、痛み止め・血をサラサラにする薬を飲んでいる方の胃潰瘍予防などで、胃酸を抑える薬を長く続けることがあります。
自己判断で中止すると、症状が再発したり、潰瘍の予防効果がなくなったりすることがあります。一方で、症状が落ち着いて必要性が下がっていることもあります。量を減らせるか、続ける必要があるかは、定期的に主治医と見直してください。
市販薬で様子を見てよい場合・受診すべき場合
市販薬で様子を見てよい目安
- 食べすぎ・飲みすぎなど、原因がはっきりしている一時的な胃もたれや胃痛
- 症状が軽く、数日で良くなっていく
- ほかに気になる症状がない
市販薬で様子を見ずに受診してほしい症状
- 黒い便(タールのような便)、血を吐いた
- 体重が減ってきた、食欲がない状態が続く
- 食べ物が飲み込みにくい
- 夜中に目が覚めるほどの痛みがある
- 50歳以上で初めての胃の症状
- 痛み止め(ロキソニン、アスピリンなど)を飲み続けている
- 市販薬を3日飲んでも良くならない、2週間たっても続いている
市販の胃薬は、症状をやわらげる力があるぶん、胃潰瘍や胃がんの症状を隠してしまうことがあります。 症状が続く場合は、自己判断で飲み続けず、消化器内科で胃カメラなどの検査を受けてください。
市販の胃薬を使うときの注意
- ガスター10は、15歳未満と80歳以上の方は使えません
- 腎臓の病気、肝臓の病気、心臓の病気がある方、妊娠中・授乳中の方は、購入前に薬剤師に相談してください
- 病院で胃薬をもらっている方は、市販薬を重ねて飲まないでください
- 飲み薬を何種類も飲んでいる方は、お薬手帳を見せて相談してください
受診するときに伝えてほしいこと
- 症状はいつからか、どのくらい続いているか
- 痛む場所(みぞおち、右上のお腹など)と、食事との関係
- 使った市販薬の名前、量、期間
- 痛み止めや、血をサラサラにする薬を飲んでいるか
- 家族に胃がんの人、ピロリ菌がいると言われた人がいるか
まとめ
| こんなとき | おすすめの対応 |
|---|---|
| 食べすぎ・飲みすぎによる一時的な不快感 | 市販薬で様子を見てよい |
| 市販薬を3日飲んでも良くならない、2週間以上続く | 内科・消化器内科を受診 |
| 黒い便、吐血がある | すぐに受診(救急も考える) |
| 痛み止めを飲んでいて胃の症状が出た | 処方した医師に相談 |
| 50歳以上で初めての胃の症状 | 消化器内科で胃カメラを検討 |
市販の胃薬は、上手に使えば頼りになる「応急処置」です。ただし、治療が必要な病気を見つけて治すのは、診察と検査の役割です。「たかが胃痛」と思わず、続くときは一度相談してください。
参考資料
- ガスター錠10mg・20mg 添付文書(PMDA)
- ガスター10 添付文書(PMDA)
- アシノンZ 添付文書(PMDA)
- ザンタック 自主回収に関するお知らせ(グラクソ・スミスクライン、2019年10月)
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