線虫がん検査「N-NOSE」でわかること・わからないこと。「高リスク」と出たらどうすべきか内科医が解説

医療

テレビのCMでも見かけたことが多いかもしれません。

「尿を送るだけで、複数のがんのリスクがわかる」——線虫(C. elegans)の嗅覚を利用したがん検査「N-NOSE(エヌノーズ)」は、手軽さから注目を集めています。

一方で、診療の中では次のような質問を受けることもあります。

  • 「高リスクと判定されたので、検査をしてほしい」
  • 「精密検査を受けたが、どこにもがんが見つからなかった。これはどういうことなのか」

という質問を、診療の中で受けることがあります。

今回は消化器内科医の立場から、この検査で実際にわかっていること、判定を解釈する際の注意点、そして結果を受け取った後にどう行動すべきかを、公表されているデータに基づいて整理します。


結論:盲信は危険、手軽な検査の限界点

  1. 手軽に受けられる検査だが、結果を鵜呑みにするのは危険。従来のがん検診を置き換えるものではない
  2. 「感度95.8%・特異度95.0%」という数値は、すでにがんと診断された人と健常者を比べた研究の結果であり、実際の検診成績とは別物
  3. 基本検査では「どの臓器のがんか」を特定できない(膵臓・肝臓に特化した検査を除く)
  4. 「高リスク」判定後にPET検査を受けた1,053人のうち、がんが見つかったのは22人(約2.09%)。開発元はこの試算方法に異議を唱えており、数値の解釈には見解の相違がある
  5. 陽性的中率が数%という検査は、他のがん検診でも珍しくない。問題は、陽性後の精密検査が「手探り」になりやすく、負担が大きいこと
  6. 「高リスク」でも慌てず、「低リスク」でも油断せず。最優先は、公的がん検診を確実に受けること
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N-NOSEとは:線虫の「匂いを嗅ぎ分ける力」を利用した検査

線虫(C. elegans)は、がん細胞が発する特有の匂い物質に引き寄せられる性質(走化性)を持つとされています。この性質を利用し、尿検体に対する線虫の反応から、がんの可能性を評価するのがN-NOSEです。

開発元の最初の検証研究(242検体)では、感度95.8%、特異度95.0%という高い数値が報告され、ステージ0〜Iの早期がんでも識別可能とされました。

注意!!この研究の数値は「すでにがんと診断されている人」と「健常者」を比較した研究(症例対照研究)の結果だという点です。

実際の検診のように、症状のない方を対象に「これから初めてがんが見つかるかどうか」を調べる状況とは、大きく性質が異なります。

一般的に、症例対照研究で示された高い精度は、実際の検診の場面ではそのまま再現されないことが知られています。


「どのがんか」は、実はわからない(一部を除く)

もう一つ、多くの方に誤解されているポイントがあります。通常のN-NOSE(基本検査)は「がんの存在が疑われるかどうか」を示すのみで、「体のどこにがんがあるのか」までは特定できません。

対応するがんの種類は、当初の15種類から、研究の進展により全身23種類(胃・大腸・肺・乳・膵臓・肝臓・前立腺・食道・卵巣・胆管・胆嚢・膀胱・腎臓・子宮頸・子宮体・口腔・咽頭・喉頭・甲状腺・消化管間質腫瘍・精巣・皮膚・血液がん)に拡大されたとされています。

しかし、基本検査で「高リスク」と出た場合、これら多数の候補の中から、どこにがんがあるのかを手探りで探す全身の精密検査が必要になるのが実情です。

この弱点を補うため、特定の臓器に絞って反応するよう調整された「特殊線虫」を用いる、より専門化した検査(膵臓用、肝臓用など)も別に提供されています。

ただし、これらは基本検査とは別の検査であり、現時点で臓器を特定できるのは、こうした専用検査が開発されているごく一部の臓器に限られます。

臓器ごとの研究状況を見ると、精度にもばらつきがあります。例えば膵臓がんを対象とした報告では感度84.6%に対し特異度は60%と、他のがん種に比べて特異度がやや低めであることも示されています。「同じ検査だから、どの臓器についても同じ精度」というわけではない点も知っておいてください。


「高リスク」と判定された方の、実際の内訳

ここが今回、最もお伝えしたい部分です。「高リスク」という判定を受け取ったとき、実際にどれくらいの確率でがんが見つかるのか——これを実地で調べた、重要な報告があります。

2024年9月、日本核医学会PET核医学分科会のワーキンググループが、全国のPET/CT実施施設を対象に、N-NOSEで「高リスク」と判定されたことをきっかけにPET検査を受診した方1,053人を調査しました。その結果は以下の通りです。

なお、PET/CT検査は全身を一度に撮影できるため、「どこかにがんがあるかもしれない」というときに選ばれやすい検査です。ただし、がん検診目的の場合は原則として自費(保険適用外)で、被曝を伴い、実施できる施設も限られます。また、脳や尿路など、検査の性質上わかりにくい部位もあります。

人数割合
調査対象者(高リスク判定を受けPET検査を受診)1,053人—
何らかのがんが発見された方22人約2.09%
うち、N-NOSEが対象とするがん種に限った場合10人約0.95%

この調査グループは、「高リスクという判定の多くが、結果的に偽陽性(がんではないのに陽性と出ること)だった」と結論づけています。

また、対象外であるはずの甲状腺がんなどが多く発見されたことも報告されており、判定と実際に見つかったがんの種類が一致しにくいことも示唆されています。

開発元は、この数値の解釈に異議を唱えている

公平性のため、もう一方の主張も併せてお伝えします。開発元であるHIROTSUバイオサイエンス社は、この調査結果自体は受け止めつつも、そこから導かれた「陽性的中率1%」という試算の方法には科学的な問題があると反論しています。同社の主張の要点は、次の2つです。

  • 陽性的中率を正確に算出するには、比較対象となる二次検査(PET-CT)の精度が100%であるという前提が必要だが、PET-CTも完璧な検査ではなく、見逃し(偽陰性)が起こりうる
  • 同社が独自に行った試算では、「真の」陽性的中率は11.7%であり、一次スクリーニング検査として有用な水準にあるとしている

つまり、「高リスク判定を受けてがんが見つかった割合」について、調査を行った医学会側と、検査の開発元との間で、数値の解釈に明確な見解の相違があるというのが、2026年現在の状況です。

どちらの数値が絶対的に正しいと断定できる段階ではなく、この検査の真の精度を確定させるには、症状のない健常者を対象とした、より大規模な追跡調査が必要だという指摘も専門家からなされています。

臨床現場の感覚で見ると:「陽性的中率が低い」だけが問題ではない

「陽性的中率が10%前後、あるいはそれ以下」という一次スクリーニング検査は、他のがん検診でも一般的です。

そのため、仮に企業側の試算値(11.7%)が正しければ、他のがん検診と比べても遜色のない水準といえます。ただし、これはあくまで一定の仮定に基づく試算値です。

参考までに、国内の公的がん検診における陽性的中率(精密検査が必要とされた人のうち、実際にがんが見つかった割合)の目安は、次の通りです。

  • 大腸がん検診(便潜血検査):約2〜3%(令和2年度の全国集計で約2.5%)
  • 乳がん検診(マンモグラフィ):数%程度
  • 胃がん検診(胃X線検査):約1〜2%
  • 胃がん検診(内視鏡検査):数%程度(胃X線検査よりやや高めの傾向)

このように、広く行われているがん検診でも、最初のスクリーニング検査の陽性的中率は「数%〜10%未満」にとどまるのが一般的です。これは検査の性能が低いからだけではなく、がんの有病率が低い健康な集団を対象に検査を行うためです。

見逃し(偽陰性)を減らそうと感度を上げるほど、実際にはがんではない人が陽性と判定される(偽陽性)絶対数が増え、結果として陽性的中率は下がります。

では、どうすればよいか

実際のデータから見ると、「高リスク」と判定されても、その後の精密検査には時間・費用・実施施設の面で大きな負担がかかります。結局のところ、公的ながん検診を一つずつ確実に受けていくことが基本になると私は考えます。自治体から検診の案内が届いたら、必ず受診する——これががんを早期に見つける最も確かな近道です。

では、N-NOSEの何が問題視されているのか?

一般的ながん検診の陽性的中率が数%であることを踏まえると、企業側が独自試算した「11.7%」という数字は、一次検査としては立派な数字に見えます。
しかし、専門家や学会が懸念・問題視しているのは以下の2点です。

  1. 実データの乖離
    前述の通り、「11.7%」は企業側が一定の仮定を置いて計算した推測値であり、実際のPET施設での追跡調査では約2.09%(対象15種に限れば1%未満)という、一般的な便潜血検査などをさらに下回る結果しか確認されていません。
  2. 精密検査の負担の大きさ
    大腸がん検診(便潜血)で陽性になった場合は、「大腸内視鏡」という明確な次のステップ(精密検査)があります。しかし、N-NOSEで陽性になった場合、「全身のどこかにがんのリスクがある」ことしか分からないため、PET/CTや全身のMRIなど、高額で被曝リスクも伴う大がかりな検査を手探りで行わなければならず、受診者の心理的・経済的・身体的負担が非常に大きくなります。

では、どうすればよいか

実際のデータから見ると、「高リスク」と判定されても、その後の精密検査には時間・費用・実施施設の面で大きな負担がかかります。

結局のところ、公的ながん検診を一つずつ確実に受けていくことが基本になると私は考えます。自治体から検診の案内が届いたら、必ず受診する——これががんを早期に見つける最も確かな近道です。

N-NOSEを使うなら、こんな人におすすめ

ここまで「結果を過信してはいけない」とお伝えしてきましたが、では、どんな人なら使ってみてもよいのでしょうか。前提条件を整理します。

補助的な選択肢として検討しやすい人

  • 公的がん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)を、年齢に応じてきちんと受けている人:基本の検診を受けた上で、「もう一つの参考情報がほしい」という位置づけであれば、検討の余地があります
  • 「高リスク」と出ても、大半はがんではない可能性が高いと理解できる人:結果に過度に動揺せず、冷静に次の行動を考えられることが前提です
  • 高リスクだった場合の対応を、あらかじめ想定できる人:かかりつけ医に相談する、追加検査の費用や時間を確保するなど、結果が出た後の行動を事前に決めておける方
  • 自費(保険適用外)の検査であることを理解している人

おすすめしにくい人

  • すでに気になる症状がある人:検査の結果を待たず、先に医療機関を受診してください
  • 公的がん検診を受けていない人:N-NOSEより先に、まず公的検診を受けることが優先です
  • 家族にがんの方が多いなど、リスクが高いと考えられる人:N-NOSEではなく、医療機関で適切な検診・検査の計画を相談してください
  • 結果に一喜一憂しやすい人:「高リスク」の判定で強い不安を抱えたり、逆に「低リスク」で安心しすぎたりするおそれがあります
  • 「この検査を受けているから、がん検診は不要」と考えてしまいそうな人

結果を受け取ったら、どう行動すべきか

結果に一喜一憂しないことが大前提ですが、以下のような行動を心がけてください。

「高リスク」と出た場合

数値の解釈に議論はあるものの、「高リスク=がんの宣告」ではなく、多くは結果的にがんではなかったという点は、学会側・開発元の双方に共通しています。過度に恐れる必要はありませんが、無視してよいわけでもありません。次の順番で考えてください。

  1. まず、公的がん検診の受診状況を確認する:胃・大腸・肺・乳・子宮頸がん検診のうち、受けていないものや間隔が空いているものがあれば、それを最優先で受けてください
  2. 症状・リスクがあれば、早めに医療機関へ相談する:血便、体重減少、持続する腹痛や咳などの症状、がんの家族歴、喫煙・多量飲酒の習慣がある場合は、かかりつけ医や消化器内科に相談し、症状に合った検査を行います
  3. いきなり全身のPET/CTに進まない:基本検査では臓器が特定されていないため、年齢・症状・これまでの健診結果を踏まえ、医師と相談しながら検査の優先順位をつけます。PET/CTは自費で高額になりやすく、被曝も伴うため、最初の一手とは限りません
  4. 膵臓・肝臓など特定臓器用の検査を受けていた場合:その臓器を中心に、消化器内科などの専門医に相談してください
  5. 精密検査で異常がなければ、その後も通常の検診を続ける

精密検査で「どこにもがんがなかった」とき

「高リスクだったのに、どこにもがんが見つからなかった」という結果の意味は、一つに決まりません。

N-NOSEの判定が偽陽性だった可能性もあれば、現在の画像検査では見つけられない小さな病変があった可能性もあり、どちらであるかは断定できません。

そのため、異常がなかったことに安心しつつも、次回以降の公的がん検診を予定通り受けること、そして気になる症状が出たときは早めに再受診することが大切です。

「低リスク」と出た場合

こちらも注意が必要です。「低リスク」という結果は、がんが存在しないことを保証するものではありません。

この検査を受けたことで安心し、本来受けるべき対策型・任意型のがん検診(胃がん検診、大腸がん検診など)を先延ばしにしてしまうことこそ、専門家が警鐘を鳴らしているもう一つのリスクです。


今のところ言えること:あくまで「補助的な選択肢」

尿検査によるがんの検出研究自体は、消化器がん全体でROC曲線下面積(検査の識別能を示す指標)が0.80を超える、食道がんで0.85に達するなど、研究レベルでは有望な結果も多く報告されています。

膀胱がん・前立腺がん・腎がんといった尿路系のがんでは特に研究が進んでおり、補助診断としての臨床応用が議論されている段階です。

一方で、こうした研究の多くは少数例を対象にした段階にとどまり、症状のない一般集団で実際にどれだけがんを発見できたかを示す大規模な実地データは、まだ限定的です。N-NOSEについても、期待の大きさと、検証の途上にあるという事実の両方を正確に理解しておくことが大切です。


まとめ

  1. N-NOSEは「がんの可能性」を評価する検査だが、基本検査では臓器の特定はできない(膵臓・肝臓用などの専用検査を除く)
  2. 公表されている高い精度(感度95.8%・特異度95.0%)は症例対照研究のデータであり、実際の検診成績とは分けて考える
  3. 実地調査では、「高リスク」のうちPET検査でがんが見つかった割合は約2.09%。開発元は試算方法に異議を唱えており、見解の相違が続いている
  4. 陽性的中率が数%という検査は他のがん検診でも一般的。課題は、陽性後の精密検査が手探りになり、負担が大きいこと
  5. 「高リスク」でも慌てず、「低リスク」でも油断せず。まず公的がん検診の受診状況を確認する
  6. 精密検査で異常がなくても、その後の定期的な検診と、症状が出たときの早めの受診は続ける
  7. 使うなら、公的検診を受けた上での「補助的な参考情報」として。症状のある方・検診未受診の方は、先に医療機関へ
  8. 現時点では、従来のがん検診を置き換えるものではなく、補助的な選択肢の一つと捉えるのが適切

新しい検査技術には大きな期待が寄せられる一方、その実力を正しく評価するには時間と検証が必要です。N-NOSEの結果を受け取った際は、一喜一憂せず、かかりつけ医とともに次の一歩を落ち着いて考えていただければと思います。



参考資料

  • Hirotsu T, Sonoda H, Uozumi T, et al. A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis Elegans Scent Detection. PLoS One. 2015.
  • Kobayashi M, Fujita A, Ogawa T, et al. Caenorhabditis Elegans as a Diagnostic Aid for Pancreatic Cancer. Pancreas. 2021.
  • Kusumoto H, Tashiro K, Shimaoka S, et al. Efficiency of Gastrointestinal Cancer Detection by Nematode-Nose (N-Nose). In Vivo. 2019.
  • Siguencia F, Heard J, Smith SM, et al. Diagnostic Performance of Urinary Biomarker Tests in Detecting Bladder Cancer: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Network Meta-Analysis. Urology. 2026.
  • 日本核医学会PET核医学分科会 PETがん検診ワーキンググループ「PETがん検診と線虫検査に関する多施設調査」2024年10月3日発表。
  • 株式会社HIROTSUバイオサイエンス「N-NOSEの精度に関して、科学的に絶対に説明できない数値を報道する記事について」2024年10月23日。
  • 株式会社HIROTSUバイオサイエンス「N-NOSE Innovation Update」発表資料。2024年9月20日。
  • 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診の都道府県別プロセス指標(令和5年度 地域保健・健康増進事業報告より)」
  • 厚生労働省「令和2年度 地域保健・健康増進事業報告」(大腸がん検診の陽性反応適中度)
  • 厚生労働省 がん検診受診向上指導事業「かかりつけ医のための がん検診ハンドブック」(胃がん検診の陽性反応適中度)

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