「寒くなると心臓発作が増える」というのは、比較的よく知られた話だと思います。
では、胃や腸、胆のうといった消化器の病気にも、季節によって多くなるものがあるのをご存知でしょうか。
実は消化器の病気は、心臓病のように「冬に一極集中」するわけではなく、病気の種類によって、夏に多いもの・冬に多いものがはっきり分かれるという、少し複雑な傾向を持っています。
今回は内科医の立場から、心血管疾患と消化器疾患(感染性のものを除く)について、季節ごとのリスクとその理由を整理して解説します。

結論:消化器疾患にも季節でなりやすい疾患はある
- 心筋梗塞・脳卒中・心不全は世界共通で冬に多く、夏に少ないという一貫したパターンがある
- 日本では「ヒートショック」と住宅の断熱性の低さが、この冬季リスクをさらに押し上げている
- 消化器の病気は「夏に多いもの」と「冬に多いもの」に分かれる、心血管疾患とは異なるパターンを示す
- 虫垂炎・胆石関連の病気は夏に多い傾向がある、理由としては気温そのもの+脱水・食事・免疫の変化など複数要因が絡む
- 消化性潰瘍は冬に多い傾向がある。しかし感染(ピロリ菌)が優位な集団で明瞭に現れやすく、地域によって結果が一致しない研究もある
- 消化器疾患の季節性は単一の原因ではなく、複数の要因が重なって生じているため、残念ながら生活習慣の工夫だけで完全に防げるものではない
心血管疾患:冬が最も危険な季節
心筋梗塞・心不全・脳卒中・心血管死亡はいずれも、世界中の多くの地域・気候帯で一貫して冬に多く、夏に少ないというパターンを示します。
48件の研究・約290万件の入院・160万件の死亡を統合した解析では、最も多い季節(主に冬)は最も少ない季節(主に夏)と比べて、入院が1.20倍、命に関わるイベントが1.23倍多かったと報告されています。
この結果に関しては、多くの皆さんも同様に感じているのではないかと思います。
ただ今後は猛暑が増えていることから、夏場にも心筋梗塞や脳梗塞の血管病変も増えてくる可能性もあります。

なぜ冬に多いのか:体の中で起きていること
- 血管が縮み、心臓に負担がかかる:寒さは交感神経を活発にし、血圧・心拍数を上げ、血管を収縮させます。これにより心臓が必要とする酸素の量と、実際に供給される酸素量のバランスが崩れやすくなります
- 血液が固まりやすくなる:寒冷刺激により血液の粘り気や血小板の働きが高まり、血栓(血の塊)ができやすい状態になります
- 血管の中のプラークが壊れやすくなる:血管内視鏡を使った研究では、冬季に動脈硬化のプラーク(コブ状の沈着物)が破裂しやすいことが示されています
- コレステロールや炎症の数値も変化:冬はLDL(悪玉)コレステロールが上昇し、HDL(善玉)コレステロールが低下、炎症の指標(CRP)も上昇する傾向があります
- 朝の血圧上昇(モーニングサージ)が強まる:冬は起床時の交感神経の高まりと寒さが重なり、朝の血圧上昇がより強くなることで、早朝の発症リスクがさらに上がります
日本特有の要因:ヒートショックと住宅事情
日本国内の研究でも、冬季の気温低下と心血管疾患による入院増加の関連が明確に示されています。
特に日本ならではの要因として、以下が挙げられます。
- 住宅の断熱性の低さ:日本の住宅は欧米に比べて断熱性能が低い傾向があり、暖かい居室と寒い浴室・トイレ・廊下との間で、家の中でも大きな温度差が生じやすい構造になっています
- ヒートショック:暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動し、さらに熱い湯船につかるといった、家の中での急激な温度変化の繰り返しは、血圧を短時間で大きく変動させます。この急激な血圧の乱高下が、心筋梗塞・脳卒中・不整脈といった心血管イベントの引き金になると考えられており、これが「ヒートショック」と呼ばれる現象です
- 入浴習慣との関係:日本は湯船に浸かる入浴文化が根付いており、欧米のシャワー中心の入浴習慣と比べて、この温度差にさらされる場面そのものが多いことも、背景要因として指摘されています
- 除雪作業:積雪地域では、降雪量が多い日ほど救急隊の現場到着・搬送に時間がかかり、急性冠症候群(心筋梗塞など)の院内死亡率が上昇するというデータもあります。慣れない重労働である除雪作業と、屋外の寒さへの曝露が重なることが発症の引き金になり、かつ、発症後の搬送に時間がかかるためです
- 気温の変動幅そのもの:絶対的な気温の低さだけでなく、日々の気温差が大きいこと自体が、独立して入院増加と関連することも日本のデータで示されています
なお、季節による変動の大きさは気候帯によって異なり、比較的温暖で寒さへの備えが乏しい地域ほど、季節による変動が大きくなる傾向があります。
実際、日本国内でも積雪の少ない温暖な地域の住宅ほど断熱性能への意識が低く、結果としてヒートショックのリスクにつながりやすいという指摘もあります。
消化器疾患:夏と冬で顔ぶれが変わる
心血管疾患が「冬に一極集中」するのに対し、消化器の病気(ここでは感染性の胃腸炎や食中毒を除きます)は、病気の種類によって夏に多いものと冬に多いものにきれいに分かれるという、興味深い特徴があります。
夏に多い消化器疾患
| 疾患 | 傾向 |
| 急性虫垂炎 | 英国の7年間の研究で7月に最多、1月に最少という明確な季節性 |
| 胆石関連疾患(胆のう炎・胆管炎・胆石発作) | 英国の10年間・約40万件のデータで夏が最多、冬が最少 |
| 炎症性腸疾患(IBD)の新規発症 | アジア圏の研究でクローン病の新規発症・再燃が夏にピーク |
急性虫垂炎については、気温の上昇そのものが発症を促す可能性が指摘されています。
米国の大規模データでも、虫垂炎・胆のう炎・憩室炎といった「急いで手術が必要になりうる」消化器の病気は、夏の入院が冬より13.6%多かったと報告されており、複数の国で一致した傾向です。
夏に多い消化器疾患として考えられている機序
虫垂炎・胆石関連疾患がなぜ夏に多いのか、実は「これが決定的な原因」と断定できる単一の機序はまだ確立されていません。
米国の17年間にわたる全国データを用いた研究では、季節そのものの影響を統計的に取り除いても、予測気温からのずれが大きいほど(暑い方向にも寒い方向にも)虫垂炎の発症率が変化することが示されており、気温そのものが独立したリスク要因である可能性が示唆されています。
ただし、それ以外にも複数の要因が並行して指摘されています。
- 脱水・便秘:暑さによる脱水が便秘を招き、便が固まった塊(糞石)による虫垂内の圧上昇や閉塞を促すという仮説があります
- 食生活の変化:食物繊維の少ない食事は虫垂炎のリスクを高めるとされ、夏場の食習慣の変化(屋外での飲食、飲酒、繊維の少ない食事)が関係する可能性があります。ただし、飲酒量自体は冬(12〜1月)にピークを迎えるという英国のデータもあり、飲酒だけでは夏の増加を単純には説明できません
- 大気中のオゾン濃度:夏季に上昇する地表付近のオゾン濃度と、虫垂炎発症との統計的な関連も報告されています
胆石関連疾患についても、脱水による胆汁の濃縮や、夏季の食事の変化(脂肪分の多い食事、飲酒パターンの変化)が候補として議論されていますが、虫垂炎と同様、決定的な証明には至っていません。
憩室炎など他の「急いで手術が必要になりうる」消化器疾患を含めた大規模なレビューでも、脱水・食事変化・腸内細菌や免疫の変化・日照(ビタミンD)といった複数要因の組み合わせとして捉えるのが妥当とされています。
炎症性腸疾患(クローン病)の夏の悪化についても、気温そのものというより、免疫の季節変動(夏は炎症を抑えるホルモンの働きが弱まる)、腸内細菌感染の季節パターン、清涼飲料水摂取増加による腸内細菌叢の変化など、複数の仮説が並行して提唱されています。

冬に多い消化器疾患
| 疾患 | 傾向 |
| 消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍) | 韓国の全国データで冬に発生率が最も高く、秋が最も低いという季節性が5年連続で確認 |
| 消化性潰瘍からの出血 | 潰瘍と同様、冬季にピークを示す傾向 |
| 炎症性腸疾患(IBD)の症状悪化 | 日本国内の調査で、半数の患者が季節による症状変化を自覚し、特に冬の悪化を報告 |
ただし、これらの冬季ピークについては地域による差が大きい点にも触れておく必要があります。
ノルウェー北部では9月から1月にかけて新規の胃・十二指腸潰瘍が増える傾向が報告される一方、ラトビアやスペインの研究では明確な季節変動が確認されておらず、
これはピロリ菌感染率の違いや、痛み止め(NSAIDs)の使用習慣など、地域ごとの病気の背景の違いが影響していると考えられています。
また、炎症性腸疾患の季節による悪化についても、患者さん自身の実感としては半数が季節性を感じている
一方、多数の研究をまとめた解析では、季節との統計的な関連は必ずしも強くない(相関の強さを示す指標で0.11程度、潰瘍性大腸炎ではさらに弱い0.07程度)という結果も出ており、個人差が大きいテーマだと理解しておくとよいでしょう。
冬に多い消化器疾患の考えられている機序
消化性潰瘍の冬季ピークについても、地域差が大きい理由を含めて機序が研究されています。
- ピロリ菌感染の季節変動:イスラエルで行われた研究では、ピロリ菌の検査陽性率が冬(12〜1月)に61%、夏(7〜9月)に42%と、冬に高くなることが示されており、これが冬季の潰瘍の増加と一致する可能性が指摘されています
- 痛み止め(NSAIDs)の使用増加:冬は関節痛や風邪症状に伴って痛み止めを使う機会が増え、これが胃を守る働きを弱め、潰瘍や出血のリスクを高める可能性があります
- 寒さそのものの影響:寒冷によって胃の粘膜への血流や粘液の分泌が低下することや、冬場の飲酒量の増加も要因として挙げられています
一方で、ラトビアなど季節性が確認されない地域では、ピロリ菌の感染率自体は高くても、NSAIDsや抗血小板薬が年間を通じて使われ、内視鏡などの医療体制も通年で安定しているため、
感染に左右されにくい潰瘍の発症パターンが優位になり、結果として季節による差が目立たなくなっている可能性が考えられています。
「ピロリ菌が原因の潰瘍が多い集団」ほど冬季ピークが明瞭に出やすい、という整理ができます。
炎症性腸疾患の冬の悪化については、日照時間の短縮に伴うビタミンDの低下が、有力な仮説として挙げられています。
ビタミンDには免疫の過剰な働きを抑える作用があるとされ、紫外線量の少ない地域・時期ほど、炎症性腸疾患による入院が多いという報告もあります。
つまり炎症性腸疾患は、「夏に悪化する」機序と「冬に悪化する」機序の両方が並行して存在し、どちらか一方向には決まっていないというのが、現時点で最も正確な理解です。
季節性がはっきりしない、または議論が分かれる疾患
急性膵炎については、研究によって結果が分かれています。
英国のデータでは8月・10月・12月・7月に有意な増加がみられ、特に年末年始のアルコール性膵炎が48%も増加するという報告がある
一方、韓国のデータでは膵炎全体に明確な季節性は認められていません。年末年始の飲酒機会の増加という、日本の生活習慣にも当てはまりうる要因は、注意を払う価値があるといえます。
なぜ、消化器疾患は病気ごとに真逆の季節性を示すのか
同じ「消化器の病気」でありながら、なぜ夏と冬で真逆の傾向を示す病気があるのでしょうか。
それぞれの病気が持つ、まったく異なる発症の仕組みが背景にあると考えられます。
- 虫垂炎・胆石関連疾患(夏型):気温の上昇そのものが、発症を促す一因として指摘されています。詳細な機序は完全には解明されていませんが、気温と発症数の関連は複数の大規模データで一貫して確認されています
- 消化性潰瘍(冬型):冬季に起こりやすいとされる背景には、寒さによる血流の変化やストレス反応など複数の要因が想定されていますが、地域差が大きいことからも分かる通り、単一の原因で説明しきれるものではありません
つまり、心血管疾患のように「寒さ」という単一の大きな要因で説明できる病気とは異なり、消化器疾患は病気ごとに異なる複数のメカニズムが絡み合っているため、
一括りに「消化器は夏に注意」「冬に注意」とは言えないのが実情です。

心血管、消化器疾患に共通して季節ごとに意識しておきたいこと
心血管に限らず消化器疾患にも季節性に多いものがあることが判明したため、少しでもリスクを下げるための生活習慣があります。
消化器疾患は心血管病変とは違い複合要因であるので、これらを守っても発症する場合はあるのでその点にも注意です。
冬に気をつけたいこと
- 脱衣所・浴室を暖めるなど、急激な温度差(ヒートショック)を避ける工夫をする
- 雪かきなど、急に体に負担のかかる作業は準備運動をしてから、休憩を挟みながら行う
- もともと胃潰瘍になりやすい方は、冬場の体調変化やストレスに特に注意する
- 炎症性腸疾患のある方は、日照時間が短くなる季節に体調の変化を感じやすいことを念頭に置く(ビタミンDのサプリメント摂取など個別の対策については、自己判断せず主治医に相談してください)
夏に気をつけたいこと
- 急な右下腹部の痛みなど、虫垂炎を疑う症状が出た場合は様子見せず早めに受診する
- 脂っこい食事の後の右上腹部の痛みなど、胆石発作を疑う症状にも注意する
- こまめな水分補給を意識する:脱水は虫垂炎・胆石関連疾患のいずれにも関与しうる要因として指摘されているため、暑い時期は特に水分摂取を心がける
- 食物繊維を意識した食事を続ける:屋外での食事や飲酒の機会が増えても、野菜や穀類など食物繊維を含む食品を意識的に取り入れる
年末年始に気をつけたいこと
- 飲酒量が増えやすい時期のため、急性膵炎のリスクを念頭に、飲みすぎに注意する
- 脂っこいごちそうと飲酒を同時に重ねすぎない
- 数日にわたる連続した暴飲暴食を避ける
- 持病がある方は、休診中の対応を事前に確認しておく
英国のデータでは、年末年始の時期にアルコール性膵炎が48%も増加するという報告もあり、「今日だけは」という機会が続きやすい時期こそ、一度に大量に飲まない、休肝日を作るなどの意識が重要です。
年末年始は医療機関が休診となる期間が長くなりがちです。
強い腹痛や胸の痛みなど、様子見してよいか判断に迷う症状が出た場合に備え、かかりつけの医療機関の休診期間や、休日夜間診療の窓口をあらかじめ確認しておくと安心です

まとめ
- 心筋梗塞・脳卒中・心不全は冬に一貫して多く、寒冷による血管収縮・血液凝固能の上昇・プラーク不安定化などが背景にある
- 日本ではヒートショック・住宅の断熱性・積雪が冬季リスクをさらに高める要因になっている
- 消化器疾患は病気の種類によって夏型・冬型に分かれる点が心血管疾患と大きく異なる
- 虫垂炎・胆石関連疾患は夏に、消化性潰瘍は冬に多い傾向があるが、地域差も報告されている
- 夏型の疾患には脱水・食事変化・気温そのものが、冬型の疾患には感染(ピロリ菌)・NSAIDs使用・寒冷刺激が、それぞれ複合的に関与していると考えられている
- 炎症性腸疾患は夏に悪化する機序・冬に悪化する機序の両方が並行して報告され、一方向のパターンには決まっていない
- 急性膵炎は年末年始のアルコール性膵炎の増加など、生活習慣要因との関連が指摘される
- いずれの消化器疾患も単一要因では説明できない複合的な現象であり、生活習慣の工夫は有用だが、それだけで発症を完全に防げるわけではない
「冬は心臓、夏はお腹」と単純に割り切れるものではありませんが、季節ごとにリスクが上がる病気と、その背景にある複数の要因を知っておくことは、症状に気づいた際の判断材料になります。
持病のある方は、季節の変わり目に特に体調管理を意識していただければと思います。
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