夏バテと帯状疱疹の関係、そして2025年に始まった定期接種を内科医が解説

医療

「夏バテで体がだるいと思っていたら、脇腹にピリピリした痛みと発疹が出た」

夏の終わりから秋にかけて、こうした訴えで受診される方が増えます。帯状疱疹は、疲労がたまりやすいこの時期に発症しやすい病気です。

「ただの夏バテ」と見過ごされがちですが、実は明確な原因を持つウイルス感染症であり、2025年4月からは国の予防接種の中でも定期接種の対象にもなりました。

今回は、なぜ疲労時に帯状疱疹が起こりやすいのか、そして最新のワクチン制度について、内科医の立場で正確に解説します。


結論:帯状疱疹は実は夏の病気

  1. 帯状疱疹は子どもの頃の水ぼうそうのウイルスが再活性化して起こる
  2. 疲労・ストレス・加齢による免疫力の一時的な低下が発症の引き金になる
  3. 2025年4月から65歳を基本対象とする定期接種が始まった
  4. ワクチンには2種類あり、効果の持続期間と接種回数・費用に違いがある
  5. 「ただの夏バテ」と自己判断せず、体の片側だけの痛み・発疹には要注意

帯状疱疹とは:体の中に「潜んでいた」ウイルスが目覚める病気

帯状疱疹の原因は、水ぼうそう(水痘)と同じ「水痘帯状疱疹ウイルス」です。

子どもの頃に水ぼうそうにかかると、治った後もウイルスは完全に体から消えるわけではなく、背骨の近くにある神経の根元(神経節)に、何十年もの間じっと潜み続けます。

普段は免疫の力によってウイルスの活動が抑え込まれていますが、何らかの理由で免疫の働きが一時的に弱まると、ウイルスが再び活動を始め、潜んでいた神経に沿って皮膚に発疹や痛みを引き起こします。これが帯状疱疹です。


なぜ夏に増えるのか:「夏バテ」+「暑さ・紫外線」の2つの要因

ここで一つ、正確にお伝えしておきたいことがあります。「夏バテ(食欲不振や倦怠感といった夏特有の体調不良)そのものが帯状疱疹の引き金になる」と直接証明した研究は、実は見当たりません。

一方で、「気温の高さ」や「紫外線量」といった気象条件と、帯状疱疹の発症リスクとの関連を示した研究は、世界各国から数多く報告されています。

やや専門的になりますが、正確な理解のために代表的なデータをご紹介します。

  • 台湾の全国データ:気温が1℃上がるごとに、月間の発症率がわずかに上昇し、紫外線量とも関連が見られた。発症率は気温・紫外線量がともに高い5〜10月に高い
  • 韓国の救急受診データ:気温の上昇に伴い、帯状疱疹による救急受診が最大約3%増加した
  • 中国・上海のデータ:気温が1℃上がるごとに、外来受診が約2%増加した
  • 米国の大規模保険データ(51万例以上):発症数には明確な年周期があり、夏にピークを迎える

考えられている仕組みとしては、強い紫外線を浴びることで、体の免疫(特にウイルスに対する細胞性免疫)が一時的に抑えられ、神経に潜んでいたウイルスが再活性化しやすくなるという機序が有力視されています。

つまり、正確には「夏バテで体力が落ちるから」というより、「夏の強い日差しそのものが、体の防御力に直接影響している可能性がある」という理解が、現時点の研究に近い説明です。

もちろん、暑さによる睡眠不足・食欲不振・自律神経への負担が、間接的に体調全体を崩しやすくすることも臨床的にはよく経験されており、両者が重なって発症リスクを高めている可能性は十分に考えられます。

加えて、帯状疱疹の根本的な発症要因は、加齢や基礎疾患・薬剤による免疫の低下であり、暑さや紫外線はあくまで発症の後押しをする「補助的な誘因」と位置づけられています。

夏の生活だけに気をつければ防げるものではなく、年齢とともにリスクが上がる病気であるという前提は変わりません。

よくある誤解:「帯状疱疹は寒い時期になりやすい」と思っていませんか?実際の研究データを見る限り、帯状疱疹が冬に多いと明確に支持する報告はなく、むしろ多くの研究が夏から初秋にかけての増加を示しています(発症に季節差はないとする研究もありますが、「冬にピークがある」とする一貫した結果は確認されていません)。

「寒くなってきたら気をつける病気」ではなく、年間を通じて、特に夏場も油断できない病気だと理解しておいてください。


見逃してはいけない症状:体の「片側だけ」がポイント

帯状疱疹の症状には、他の皮膚トラブルと見分けるための重要な特徴があります。

  • 体の左右どちらか片側にだけ症状が出る:これが最大の特徴です。神経に沿ってウイルスが活動するため、症状は体の正中線(真ん中)を越えて反対側に広がることはほとんどありません
  • 発疹の前に、ピリピリ・チクチクとした痛みや違和感が先行することが多い
  • その後、赤い発疹とともに、小さな水ぶくれ(水疱)が帯状に並んで現れる
  • 胸や背中、顔、頭皮など、体のさまざまな場所に出うる
  • 痛みの感じ方には個人差があり、自己判断で温冷を試すより、医療機関で症状に合った痛みの管理方法を相談することが望ましい

「なんとなく疲れているだけ」と思っていた痛みが、実は片側だけに集中していたり、数日後に発疹が出てきたりした場合は、早めに皮膚科または内科を受診してください。

治療の開始が早いほど、症状の重症化や、後述する神経痛の後遺症を防ぎやすくなります


なぜ予防が重視されるのか:後遺症としての神経痛

帯状疱疹が特に警戒される理由は、発疹が治った後も「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれる、長期間続く神経の痛みが残ることがあるためです。

年齢が高いほどこの後遺症が残りやすく、日常生活や趣味・仕事に支障をきたすほどの慢性的な痛みに悩まされる方も少なくありません。

この後遺症のリスクを避けるためにも、後述するワクチンによる予防が重要視されています。


【2025年4月〜】帯状疱疹ワクチンが定期接種になりました

ここからが今回最もお伝えしたい内容です。2025年4月1日より、帯状疱疹ワクチンが予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)に位置づけられました。

これまでは「打ちたい人が自費で受ける任意接種」という位置づけでしたが、国として接種を推奨する制度に変わったことを意味します。

対象となる年齢

制度の基本対象は「年度内に65歳になる方」です。

あわせて、2025年度から数年間の経過措置として、70歳・75歳・80歳・85歳・90歳・95歳・100歳など、5歳刻みの年齢の方も対象に含まれています(この経過措置は将来的に終了し、最終的には65歳のみが対象になる予定です)。

60〜64歳では、免疫の働きが著しく低下する病気をお持ちの方など、一部の方に限り対象となる場合があります。

50〜64歳の多くの方は、現時点では定期接種の対象外です。この年齢層で接種を希望する場合は、任意接種(自費、ただし自治体によっては独自の上乗せ助成がある場合も)としての扱いになります。

2種類のワクチン:何が違うのか

生ワクチン(ビケンなど)不活化ワクチン(シングリックス)
接種回数1回2回(通常2〜6ヶ月あけて接種)
費用の目安(自己負担・助成後)数千円程度1回あたり1万円前後(自治体により差が大きい)
特徴手軽だが、効果の持続期間はやや短いとされる効果が高く持続期間も長いとされるが、費用・回数の負担が大きい
接種できない方妊娠中の方は接種不可妊娠中の安全性データが不十分なため、原則推奨されない

臨床試験のデータでは、不活化ワクチン(シングリックス)を接種した場合、50歳以上での帯状疱疹予防効果は約97%、70歳以上でも約91%と報告されています。

あわせて、後遺症である神経痛の予防効果も高いことが示されています。

ただし、どちらのワクチンが向いているかは、年齢・持病・費用負担のバランスによって異なるため、一律に「こちらが正解」とは言えません。かかりつけ医に相談の上で選択することをお勧めします。

自治体ごとの助成内容の違いに注意:定期接種であっても自己負担額はゼロにはならず、自治体ごとに設定された金額を支払う仕組みです。

同じ「定期接種」でも、お住まいの自治体によって自己負担額が数千円から数万円まで差が生じることがあります。

また、シングリックスは2回接種が前提のため、年度の後半(目安として1〜2月以降)に1回目を受けると、2回目が次年度にずれ込み、助成が受けられなくなる場合がある点にも注意が必要です。

正確な対象年齢・自己負担額・助成期間は、お住まいの市区町村によって異なります。お住まいの自治体の公式サイトやかかりつけ医療機関で、最新の情報を必ず確認してください。


この夏、今すぐできる予防策

ワクチン接種の対象年齢に該当しない方や、接種を検討中の方も、日々の免疫力を保つ生活習慣は帯状疱疹に限らず重要です。

  • 冷房を適切に使い、質の良い睡眠を確保する
  • 食欲がなくても、たんぱく質を意識した食事を心がける
  • 暑い時間帯の無理な活動を避け、こまめに休息をとる
  • 持病のコントロール(糖尿病など)を継続する

ただし、これらの生活習慣は帯状疱疹の発症を完全に防ぐものではありません。

体の片側だけの違和感・痛み・発疹に気づいたら、自己判断せず早めに医療機関を受診することが、重症化や後遺症を防ぐ最も確実な方法です。


まとめ

  1. 帯状疱疹は体内に潜んでいた水ぼうそうのウイルスが、免疫低下により再活性化して起こる
  2. 「夏バテ」そのものが原因と証明されているわけではなく、正確には気温の高さ・強い紫外線が免疫を一時的に弱め発症リスクをわずかに高めることが複数の研究で示されている
  3. 「冬に多い病気」というイメージはデータ上支持されておらず、むしろ夏から初秋にかけて増加傾向を示す研究が多い
  4. 体の片側だけの痛み・発疹は帯状疱疹を疑う重要なサイン。早期受診が重症化・後遺症の予防につながる
  5. 2025年4月から65歳を基本対象とする定期接種が始まり、経過措置で70歳以上の一部年齢も対象
  6. ワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があり、回数・費用・効果の持続期間が異なるため、かかりつけ医と相談して選ぶ
  7. 根本的な発症リスクは加齢とともに上昇するため、夏の対策だけでなく年間を通じた体調管理と、対象年齢での接種の検討が重要

「夏バテ」という言葉で片付けず、体の片側だけに現れる違和感には注意を向けてください。

そして対象年齢に該当する方は、この機会にワクチン接種についてかかりつけ医に相談してみることをお勧めします。


参考資料

  • 厚生労働省「帯状疱疹ワクチンの定期接種化について」(2025年4月施行)
  • シングリックス筋注用 添付文書(グラクソ・スミスクライン株式会社)
  • 日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン」
  • 各自治体(東京都江戸川区、東京都多摩市、神奈川県横浜市ほか)帯状疱疹ワクチン定期接種・助成制度に関する公式情報(2025〜2026年度)
  • Kennedy PG, Mogensen TH. Determinants of Neurological Syndromes Caused by Varicella Zoster Virus (VZV). Journal of Neurovirology. 2020.
  • Choi YJ, Lim YH, Lee KS, Hong YC. Elevation of Ambient Temperature Is Associated With an Increased Risk of Herpes Zoster: A Time-Series Analysis. Scientific Reports. 2019.
  • Lai SW, Liao KF, Kuo YH, et al. The Impacts of Ambient Temperature and Ultraviolet Radiation on the Incidence of Herpes Zoster: An Ecological Study in Taiwan. International Journal of Clinical Practice. 2021.
  • Lv X, Fang X, Qian T, et al. Association Between Meteorological Factors and Outpatient Visits for Herpes Zoster in Hefei, China. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2023.
  • Galor A, Vargas R, Kim JW, et al. A Photodermatologic Perspective on Shingles: A Narrative Review Exploring the Skin Microbiome as a Variable in the Effect of UV Radiation on VZV Reactivation. Viral Immunology. 2025.

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