「膵臓がんは見つかったときには手遅れ」——そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
残念ながら、この印象はあながち間違いではありません。膵臓がんは、日本人がかかるがんの中でも特に見つけにくく、進行してから発見されやすいがんの一つです。
しかし一方で、健診で偶然見つかる膵臓の「のう胞(水がたまった袋状の変化)」から、進行する前に発見できるケースも増えてきています。
今回は消化器内科医の立場から、日本国内の最新データをもとに、膵臓がんの疫学・症状・リスク因子・診断・治療・予後、そして健診で指摘されることが増えている「IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)」との関係まで、まとめて解説します。

結論:膵癌の現状
- 膵臓がんは日本人のがん死亡原因の第4位で、患者数・死亡数ともに増加傾向
- 全がんの中でも最も予後が悪いがんの一つだが、早期に見つかれば治療成績は大きく変わる
- 新規発症の糖尿病・急性膵炎は、リスク因子というより「早期のサイン」である可能性がある
- 健診で見つかる「膵のう胞・IPMN」は、放置してよいものと、経過観察が必要なものがある
- 治療は近年、新しい薬剤の登場で選択肢が広がっている
日本における膵臓がんの現状:増え続ける患者数
国立がん研究センターの統計によると、膵臓がんは日本人のがんによる死亡原因の第4位を占め、2022年の年間死亡数は約39,500人にのぼります。
患者数・死亡率とも、男女ともに増加傾向が続いています。
患者の9割以上が60歳以上という特徴があり、高齢化が進む日本において、今後さらに患者数が増えることが見込まれています。
世界的にも患者数の増加傾向は共通しており、今後がんによる死亡原因の第2位になると予測している専門家もいます。
なぜ「見つけにくい」がんなのか:症状の特徴
膵臓がんが見つけにくい最大の理由は、ある程度進行するまで、はっきりした症状が出にくいことにあります。症状が出た場合も、以下のように他の病気でもよく見られる、非特異的なものが中心です。
- 腹痛(40〜60%)
- 肝機能の異常(約50%)
- 黄疸(約30%)
- 新たに発症した糖尿病(13〜20%)
- 消化不良、吐き気、腰や背中の痛み、原因不明の体重減少
腫瘍のできる場所で症状が変わる
膵臓がんの60〜70%は「膵頭部」というすい臓の右側(十二指腸に近い側)にでき、この場合は胆汁の流れがせき止められることによる「痛みを伴わない黄疸」が起こりやすいのが特徴です。
この痛みのない黄疸は、実は膵臓がんを疑う手がかりとして最も信頼性が高いとされ、40歳以上でこの症状がある場合、実際に膵臓がんである確率は13%、60歳以上では22%にのぼるという報告もあります。
一方、体部・尾部(すい臓の左側)にできる場合は、黄疸が出にくく、痛みが主な症状になります。そのため体部・尾部の膵臓がんは、より進行した段階で見つかりやすいという傾向があります。
「新規発症の糖尿病」は要注意サイン
ここで一つ、重要な情報があります。
新たに発症した糖尿病や急性膵炎は、膵臓がんの「原因」というより、まだ発見されていない膵臓がんの「早期のサイン(前駆症状)」である可能性が指摘されています。
特に、それまで血糖値に問題のなかった50歳以上の方が急に糖尿病と診断された場合、背景に膵臓がんが隠れていないか、慎重な評価が推奨されることがあります。
リスク因子:生活習慣で対策できるもの、できないもの
生活習慣で対策できるリスク因子
| 因子 | リスクの目安 |
| 喫煙 | リスクが約1.8倍。膵臓がん死亡の21%は喫煙が関連 |
| 大量飲酒(1日あたり純アルコール60g以上) | リスクが約1.6倍 |
| 糖尿病(特に新規発症) | リスクが約1.5倍 |
| メタボリックシンドローム | リスクが約1.3倍 |
| 肥満 | BMIが5上がるごとにリスクが緩やかに上昇 |
これらはいずれも、禁煙・節酒・体重管理・糖尿病のコントロールといった、日常生活の中で対策できる要因です。

病気・体質によるリスク因子
- 慢性膵炎:膵臓がんの発症リスクが大きく上昇するとされています
- 急性膵炎(特に発症後2ヶ月以内):これも前述の通り、原因というより早期症状である可能性があります
- 家族に膵臓がんの方がいる(第一度近親者):リスクが上昇し、罹患している近親者の人数が多いほどさらにリスクが高まります
遺伝性のリスク
膵臓がん全体の5〜10%程度は、生まれつきの遺伝子の変化(BRCA1/2、PALB2、ATMなど、乳がん・卵巣がんとも関連する遺伝子を含む)に関連した、遺伝性のものであるとされています。
ご家族に膵臓がんの方が複数いる場合や、乳がん・卵巣がんの家族歴もある場合は、遺伝カウンセリングの対象になることがあるため、気になる方は消化器内科・遺伝外来のある医療機関に相談してみてください。
診断:どんな検査が行われるのか
膵臓がんが疑われた場合、まず行われるのは造影CT検査です。
膵臓の血流の状態を細かく描出できる撮影方法(膵臓専用のプロトコル)を用いることで、診断精度は約89%とされています。
状況に応じて以下の検査を追加していく場合があります。
- MRI:肝臓への転移の確認や、CT検査が使えない方の代わりとして有用
- 超音波内視鏡検査(EUS):胃カメラのように内視鏡を挿入し、膵臓に近い位置から詳しく観察する検査。組織を採取して確定診断を行う際にも用いられる
- 腫瘍マーカー(CA19-9):治療効果をみる指標として有用ですが、胆管の詰まりや炎症でも上昇することがあり、この数値だけで診断や早期発見をすることはできません
近年は、診断がついた後に遺伝子検査(次世代シーケンサーによる腫瘍のプロファイリング)を行い、その方の腫瘍の性質に合った治療薬がないかを調べることも標準的になってきています。
健診で「膵のう胞」「IPMN」と言われたら
ここ数年、健診の腹部超音波検査で偶然「膵臓に水のたまった袋(のう胞)がありますね」と指摘される方が増えています。その多くはIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)と呼ばれる病変です。
IPMNは、それ自体ががんというわけではなく、将来的にがん化する可能性がある「前がん病変」という位置づけです。
「がんの卵」と言われることもありますが、多くは非常にゆっくりとしか変化せず、すぐに手術が必要になるケースは限られています。
「今すぐ手術」を考えるサイン:高リスク所見
以下のいずれかがある場合は、悪性の可能性が高いため、外科的切除を強く検討、または専門施設での術前精査が必要です。
- 嚢胞による黄疸:膵頭部の嚢胞が原因で胆管を圧迫し、黄疸を呈している。
- 5mm以上の壁在結節:造影CTやEUSで造影効果が確認できる5mm以上の隆起(こぶ)がある。
- 主膵管の高度拡張:主膵管径が10mm以上に拡張している。
- 細胞診陽性・疑い:細胞診陽性・疑い:超音波内視鏡下で採取した膵液または嚢胞液の細胞診で、悪性が疑われる結果が出ている。
「慎重な経過観察」が必要なサイン:懸念所見
すぐに手術とはなりませんが、がん化の予兆の可能性があるため、超音波内視鏡(EUS)による精査や、3〜6ヶ月毎の頻回な画像フォローが推奨されます。
- 嚢胞の大きさが3cm以上
- 5mm未満の造影される壁在結節
- 主膵管が5〜9.9mmに拡張(10mm未満の拡張)
- 急性膵炎の既往
- 血清CA19-9値の上昇
- 増大速度の加速:年間2.5mm以上の嚢胞径増大(2024年版で正式採用された新基準)。
- 周囲組織の変化:急峻な膵管径の変化に伴う末梢膵の萎縮、またはリンパ節の腫大。
大切なポイント:これらの所見が一つあったからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。高リスク所見・懸念所見のいずれにも当てはまらない小さなIPMNは、1年ごとの検査で十分とされることも多く、多くの方は経過観察だけで問題なく過ごされています。
健診でIPMNや膵のう胞を指摘された場合、自己判断で放置せず、また過度に不安にもならず、指定された間隔で検査を継続することが最も重要です。
CA19-9に関しては、一度の検査でやや高値という人は、比較的多くいます。
しかしCA19-9は様々な原因で上昇するため、すい臓がん以外のことも考えて対応することが重要です。また最初は正常値でも、後日上昇しているような場合も注意が必要です。
治療:進行度によって大きく異なるアプローチ
膵臓がんの治療は、がんが体のどこまで広がっているか(切除できるかどうか)によって、大きく方針が分かれます。
手術で切除できる場合
標準的な治療は、手術(膵臓の切除)を先に行い、その後6ヶ月間の抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行う方法です。腫瘍が大きい場合や、腫瘍マーカーが非常に高い場合には、手術の前に抗がん剤治療を行う方法が選択肢に加わることもあります。
手術ぎりぎりの範囲(境界切除可能)の場合
この場合は、先に抗がん剤治療(放射線治療を併用することもある)を行ってから手術し、その後さらに抗がん剤治療を追加する方法が標準的です。臨床試験でも、先に抗がん剤治療を行う方が、手術を先に行うより生存期間が長くなることが示されています。
手術ができない・転移がある場合
この段階では、全身への抗がん剤治療が中心になります。近年、複数の薬剤を組み合わせた治療法の選択肢が増えており、治療効果と副作用のバランスを見ながら選択されます。
また、腫瘍の遺伝子変異に応じた分子標的治療(特定の遺伝子変化を持つ方にのみ有効な、より狙い撃ちする治療薬)も、対象となる方には選択肢に加わってきています。
予後:早期発見がなぜ重要なのか
膵臓がんは、全てのがんの中でも生存率が最も低いがんの一つです。
国立がん研究センターのデータでは、膵臓がん全体の5年相対生存率(がん以外の原因での死亡を除いた指標)は約12.7%とされ、がん全体の平均(66.2%)と比べて大きな差があります。
ただし、この数字だけを見て「膵臓がん=助からない」と考えるのは正確ではありません。病期(ステージ)によって、生存率には非常に大きな差があります。
| 病期 | 5年生存率の目安 |
| 局所にとどまっている場合 | 約37% |
| 周辺のリンパ節まで進行した場合 | 約12% |
| 遠隔転移がある場合 | 約3% |
この差の大きさこそが、「早期発見がいかに重要か」を物語る数字です。
手術で切除でき、その後の抗がん剤治療も完遂できた方では、生存期間の中央値が4年を超えるという報告もある一方、切除できない状態で見つかった場合、治療を行っても生存期間の中央値は10〜12ヶ月程度、無治療の場合は5〜6ヶ月程度にとどまるとされています。
実際、2004年から2015年にかけて、膵臓がん全体の5年生存率は改善してきていますが、その改善のほとんどは「早期に見つかった方」の生存率向上によるもので、進行した状態で見つかった方の生存率はほとんど変わっていません。
この事実は、治療そのものの進歩に加えて、いかに早く見つけるかが引き続き重要であることを示しています。
まとめ
- 膵臓がんは日本人のがん死亡原因の第4位で、患者数・死亡数ともに増加傾向にある
- 症状が出にくく、出ても非特異的なため見つけにくいがんだが、痛みのない黄疸・新規発症の糖尿病は重要な手がかりになりうる
- 喫煙・多量飲酒・肥満・糖尿病など生活習慣で対策できるリスク因子と、慢性膵炎・家族歴・遺伝性のリスクがある
- 健診で見つかるIPMN・膵のう胞は、多くが年1回程度の経過観察で問題ないが、大きさ・壁在結節・主膵管の拡張などの所見によっては、より頻回な検査や手術が検討される
- CA19-9は診断の決め手にはならない検査値であり、一度の高値だけで一喜一憂せず、経過を追って判断することが重要
- 治療は切除できるかどうかで大きく方針が分かれ、近年は薬剤・分子標的治療の選択肢が広がっている
- 病期による生存率の差は非常に大きく(局所約37%・遠隔転移約3%)、早期発見が予後を大きく左右する
膵臓がんは、決して「見つかったら終わり」の病気ではありません。健診での腹部超音波検査は、症状のないIPMNや初期の変化を見つける貴重な機会です。
「特に症状もないから健診は後回しに」とせず、定期的な受診を続けていただくことが、将来的な早期発見につながります。

参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんの統計2023」「膵臓 がん統計」
- 国立がん研究センター「院内がん登録生存率集計」
- 日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン2022年版」
- Ohno E, Balduzzi A, Hijioka S, et al. Association of high-risk stigmata and worrisome features with advanced neoplasia in IPMN: a systematic review. Pancreatology. 2024.
- International evidence-based Kyoto guidelines for the management of intraductal papillary mucinous neoplasm of the pancreas(IPMN国際診療ガイドライン日本語版、2024年版)
- NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Pancreatic Adenocarcinoma. National Comprehensive Cancer Network. 2026.
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