大腸憩室・憩室炎とは?出血・炎症の違いから治療・予防まで消化器内科医が徹底解説【保存版】

医療

「大腸カメラで『憩室(けいしつ)がありますね』と言われたけれど、そのままにしていいの?」

「急に左下腹部が痛くなって病院に行ったら『憩室炎』と診断された」

大腸憩室は、実は多くの日本人が持っている、ごくありふれた大腸の変化です。

ただし、この憩室が「出血」を起こすタイプと「炎症(憩室炎)」を起こすタイプでは、症状も対応もまったく異なります

今回は消化器内科医の立場から、大腸憩室と憩室炎について、診断・治療・予防まで網羅的に解説します。

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結論:憩室は加齢でできる。出た症状次第で対応が変わる

  1. 大腸憩室は加齢とともに誰にでもできやすくなる、大腸の壁の一部がポケット状に飛び出た構造
  2. 憩室があるだけでは治療の必要はなく、症状が出るのは一部の方のみ
  3. 「憩室出血」と「憩室炎」まったく別の病態で、対応も異なる
  4. 多くの憩室炎は軽症で、抗菌薬なしでも自然に改善する
  5. 食生活・体重管理・運動・禁煙といった生活習慣の改善で、発症リスクを約半分に減らせるという報告がある

大腸憩室とは:加齢とともに増える「大腸のポケット」

大腸憩室とは、大腸の壁の弱くなった部分が、内側から外側へ袋状に飛び出してできる小さなポケットのことです。

血管が壁を貫通する部分など、構造的にもともと弱い箇所にできやすいとされています。

この憩室、実は驚くほど多くの方が持っています。年齢とともに有病率は上昇し、40歳未満では20%未満であるのに対し、60歳では約60%、85歳以上では最大80%にのぼるという報告があります。

つまり高齢になるほど「憩室がある」こと自体はごく普通の状態だといえます。

大腸内視鏡検査で「憩室がありますね」と言われても、多くの場合それだけで治療の対象にはなりません。

問題になるのは、この憩室に「出血」または「炎症」が起きたときです。


「憩室出血」と「憩室炎」:まったく違う2つの病態

同じ「憩室」という言葉が使われますが、この2つは症状も対応もまったく異なります。混同されがちなので、まず整理します。

憩室出血憩室炎
原因憩室内を通る血管が破れて出血憩室内に便が詰まり、炎症を起こす
主な症状急な血便(痛みを伴わないことが多い)左下腹部の痛み、発熱
痛みの有無基本的に痛みは少ない痛みが主症状
対応出血源の特定・止血処置が中心安静・食事調整・抗菌薬(重症例のみ)

「お腹が痛くないのに血便が出た」場合は憩室出血、「お腹が痛くて熱もある」場合は憩室炎を疑う、というのが大まかな見分け方です。

ただし自己判断は禁物で、いずれの場合も医療機関での評価が必要です。

頻度としては憩室炎(diverticulitis)の方憩室出血(diverticular bleeding)より高いといわれています。 

米国消化器病学会(ACG)のガイドラインで報告された発生率は、憩室炎の年間発生率は約188/100,000人であるのに対し、憩室出血は約0.5/1,000人年(=50/100,000人年)とされ、憩室炎の方が高頻度と報告されています。

入院する頻度についても、米国での大規模な入院データ(2000〜2010年)では、憩室炎による入院有病率は憩室出血のおよそ3倍と報告されています。

この差は80歳未満のほぼ全年齢層・人種で一貫しています。

しかし80歳以上でのみ憩室出血の有病率が憩室炎を上回っていたと報告されています。

この記事では、特に日常的な受診理由として多い「憩室炎」を中心に解説します。


憩室炎はどのくらいの人がなるのか

憩室がある方すべてが憩室炎になるわけではありません

憩室を持つ方のうち、生涯で憩室炎を発症するのは1〜4%程度とされています。

生涯を通じた発症リスクは、男性で約3%女性で約5%です。

発症した場合、その85%は「非複雑性」と呼ばれる軽症タイプで、残り15%が膿瘍(うみの塊)・穿孔(腸に穴が開く)・瘻孔(他の臓器とつながってしまう)・腸閉塞などを伴う「複雑性」憩室炎です。

一度発症すると、10年以内に少なくとも22%の方が再発し、2回目の発作を経験するとさらに再発率は上がっていきます。


なぜ憩室炎になるのか:リスク因子

憩室の中に便が滞留し、粘膜がただれて炎症を起こし、局所的な血流障害や、進行すると穿孔に至るというのが基本的な発症の仕組みです。

以下のような要因が、発症リスクを高めるとされています。

  • 食事:食物繊維の少ない食事、赤身肉や精製された炭水化物の多い食事
  • 体型・生活習慣:肥満(特に内臓脂肪型)、運動不足、喫煙、多量の飲酒
  • 薬剤:NSAIDs(ロキソニンなど)の常用、オピオイド系鎮痛薬、ステロイド、ホルモン補充療法
  • 加齢・遺伝:一卵性双生児での発症一致率の高さから、発症リスクの約半分は遺伝的な要因によるという報告もあります

「遺伝の影響が半分」と聞くと、生活習慣を変えても意味がないと思われるかもしれませんが、そうではありません。

残りの半分は生活習慣で対策できる部分であり、後述する通り、実際に発症リスクを大きく下げられることが示されています。


憩室炎の症状:見逃しやすいポイント

代表的な症状は以下の通りです。

  • 左下腹部の痛み:最も特徴的な症状(日本人を含むアジア人では右側にできやすい傾向があり、右腹部痛として現れることもあります)
  • 発熱
  • 排便習慣の変化(下痢や便秘)
  • 吐き気(嘔吐を伴わないことが多い)
  • 血液検査での白血球数・CRP(炎症の指標)の上昇

ただし、これらの症状はいずれも他の病気(虫垂炎、尿路結石、婦人科疾患など)でも起こりうる非特異的な症状です。

実際、症状だけで憩室炎と診断できる精度は40〜65%程度にとどまるとされ、症状だけで自己診断するのは危険です。

「なんとなくお腹が痛い」だけで市販の痛み止めで様子を見るのではなく、症状が2〜3日続く場合は医療機関を受診してください。


診断:CT検査が中心

憩室炎が疑われる場合、造影CT検査が最も精度の高い検査法とされています。

感度・特異度ともに95%以上と非常に高精度で、以下のような所見を確認します。

  • 憩室の周囲の脂肪組織に炎症性の変化があるか
  • 腸管の壁が厚くなっていないか(非複雑性の所見)
  • 膿瘍・穿孔・遊離ガス・瘻孔がないか(複雑性の所見)

すべての方に必ずCTが必要というわけではありませんが、画像検査を行っていない場合、症状が重い場合、治療しても改善しない場合、免疫抑制状態にある場合、繰り返し再発して手術を検討する場合には、診断確定と病変の場所を正確に把握するためにCTを行うことが推奨されています。

被ばくや造影剤を避けたい場合は、腹部超音波検査が代替手段となることもあります(ヨーロッパでは超音波が第一選択として多用される国もあります)。

MRI検査は病変の検出感度自体は高いものの、CTに比べて特異度がやや劣るため、急性期の第一選択としては通常用いられません。

注意点として、CTなどの画像検査では大腸がんの存在を否定できないところです。憩室炎の状態が改善した後に大腸カメラの検査も検討するように勧めています。


治療:多くは「安静と食事調整」で改善する

「憩室炎」と聞くと、抗菌薬による治療を想像される方が多いと思いますが、近年の考え方は大きく変わってきています。

軽症(非複雑性)の場合:抗菌薬は「必須」ではない

「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン2026(改訂第2版)」、米国消化器病学会(AGA)でも、免疫機能が正常で症状の軽い急性非複雑性憩室炎に対して、抗菌薬を一律に使うのではなく、必要な方にのみ選択的に使用するという方針を支持しています。

多くの軽症例は、経過観察・鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)・食事の調整(水分中心の食事へ一時的に切り替える)だけで自然に改善します。

抗菌薬の投与(+入院加療を検討)が推奨されるのは、以下のような場合に限られます。

  • 敗血症の徴候がある場合
  • 免疫抑制状態(高齢者、糖尿病、ステロイド使用中、化学療法中など)
  • 妊婦
  • 経口摂取が困難な症例
  • CT所見で膿瘍や穿孔(微小穿孔含む)が認められる場合

免疫不全のある方は、症状が軽く見えても重症化しやすいため、こうした場合はCTでの評価と抗菌薬による治療が強く推奨されます。

実際に処方される抗菌薬の種類・期間は、原因菌の傾向や薬剤耐性の状況によって国・地域ごとに異なるため、具体的な薬剤の選択は担当医の判断に委ねてください。

複雑性憩室炎の場合:入院治療を検討

膿瘍・穿孔などを伴う複雑性憩室炎では、点滴による抗菌薬投与に加え、以下のような処置が必要になることがあります。

  • 膿瘍に対する、皮膚から針を刺して膿を抜く処置(経皮ドレナージ)
  • 症状が重い場合の、腸の一部を切除する手術
  • 腹膜炎(お腹全体に炎症が広がった状態)を合併した場合の緊急手術

手術が必要になった場合の死亡率は、あらかじめ計画された待機的な手術では0.5%程度である一方、緊急手術では10.6%まで上昇するというデータがあります。

この差の大きさが、「重症化する前に、いかに早く適切な治療につなげるか」の重要性を物語っています。

手術は「発作の回数」だけで決めるものではない

「何回も繰り返しているから、そろそろ手術した方がいいのでは」と考える方もいますが、米国消化器病学会は、過去の発作回数だけを根拠に予防的な大腸切除術を勧めるべきではないとしています。

病気の重症度・患者さん自身の希望・手術のリスクとメリットを総合的に考慮した、個別の判断が必要とされています。

再発を繰り返し、生活の質が著しく損なわれている場合には、待機的な大腸切除術が選択肢になります。

ただし、手術をしても再発リスクがゼロになるわけではありません。

手術をしない場合の5年再発率が約60%であるのに対し、手術後は約15%まで下がるとされていますが、完全に無くなるわけではないため、手術後に「思っていたのと違った」と後悔される方も一定数いることが知られています。

手術を検討する際は、医師とじっくり相談しながら決めることが重要です。


予防:生活習慣でリスクを約半分に

ここが今回最もお伝えしたいポイントです。憩室炎の発症・再発リスクは、生活習慣の改善によって約50%低減できるというコホート研究の報告があります。

  • 食事:果物・野菜・全粒穀物・豆類を中心とした、質の良い高繊維食を心がける。赤身肉や甘いものは控えめに
  • 体重管理:適正体重(BMI)を維持する
  • 運動:定期的な身体活動、特に活発な運動はリスク低下に効果的
  • 禁煙
  • NSAIDsの制限:心血管疾患の予防目的で処方されている低用量アスピリンを除き、ロキソニンなどのNSAIDsを週2回以上習慣的に使うことは避ける

よくある誤解:「ナッツ類・種子・とうもろこし・ポップコーンは憩室に詰まるから避けるべき」と言われることがありますが、これらの食品の摂取を制限する必要はないというのが現在の見解です。以前は広く信じられていた説ですが、その後の研究で明確な関連は否定されています。


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何科を受診すればいい?

急な左下腹部痛や発熱がある場合は、まず内科または消化器内科を受診してください。

夜間・休日で症状が強い場合(高熱、激しい腹痛、嘔吐を伴う場合など)は、救急外来の受診も検討してください。

すでに大腸内視鏡検査で「憩室がある」と指摘されているだけで症状がない場合は、慌てて受診する必要はありません。

定期的な健診・大腸内視鏡検査のフォローの中で経過をみていけば十分です。


まとめ

  1. 大腸憩室は加齢とともに誰にでもできやすくなる変化で、あるだけでは治療の対象にならない
  2. 「憩室出血(痛みの少ない急な血便)」と「憩室炎(腹痛・発熱)」はまったく別の病態であり、症状によって見分ける
  3. 憩室炎が疑われる場合の診断は造影CT検査が中心。症状だけでの自己判断は難しい
  4. 多くの軽症例は抗菌薬なしでも自然に改善する。抗菌薬・入院が検討されるのは、敗血症の徴候がある、免疫抑制状態、妊娠中、経口摂取が困難、CTで膿瘍・穿孔が確認された場合など、一定の条件に当てはまるとき
  5. 手術は発作の回数だけで決めるものではなく、重症度や本人の希望を踏まえた個別の判断が必要。手術後も再発リスクがゼロになるわけではない
  6. ナッツ類・種子・とうもろこしなどを避ける必要はないという、よくある誤解にも注意
  7. 食生活・体重管理・運動・禁煙で、発症・再発リスクを約半分に減らせる可能性がある
  8. 憩室炎が改善した後、大腸カメラをしたことがないようであれば、大腸がんの否定のため大腸カメラの検査も考える

大腸憩室・憩室炎は、加齢に伴ってごく普通に起こりうる変化です。

過度に恐れる必要はありませんが、急な腹痛・発熱・血便があった場合は自己判断せず、早めに医療機関を受診してください。

そして、日々の生活習慣の積み重ねが、将来の発症・再発リスクを左右するという点は、ぜひ覚えておいていただきたいポイントです。

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参考資料

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