「胸が痛い」
特に左胸が痛い場合、一番最初にイメージするのは「心臓に何かあった?」です。
胸痛の頻度は、
厚生労働省の2023年の発表によると、2022年における症状別の延べ患者数では、胸痛訴えた人は約91万人と報告されています。
また、プライマリ・ケア診療所における症候及び疾患の頻度順位の同定に関する研究より、胸痛に関連する疾患での受診は約2%でした。
発熱、腹痛、頭痛と比べると比較的少ないほうに分類されます。
一方で、救急外来受診者に限ると約15~30%が急性冠症候群、約15%がその他の心臓疾患、約50%が非心臓性疾患とされています。
今回は危険な胸痛を起こす代表的な疾患を中心にまず解説します。
さらに様子を見ていい場合の胸痛と、医師に伝えるべき症状のポイントについても紹介していきます。

危険な胸痛の特徴
American College of Cardiologyは、胸痛の初期評価において生命を脅かす疾患を迅速に特定することを推奨しています。
まずはこれらを除外することが必要最低限になります。
急性冠症候群(ACS)を示唆する特徴: 狭心症・心筋梗塞の可能性は?
- 性質: 胸骨後部の不快感(圧迫感、締め付け感、重圧感、絞扼感、灼熱感)として認識される
- 部位と放散: 肩、腕、頸部、背部、上腹部、顎への放散
- 発症と持続時間: 数分かけて徐々に強度が増す
- 誘発因子: 安静時または最小限の労作で発症する狭心症様症状はACSを示唆する
- 随伴症状: 呼吸困難、発汗、悪心・嘔吐、動悸、めまい、失神前状態または失神、精神状態の変化
- 身体所見: 発汗、頻呼吸、頻脈、低血圧、肺野のcrackles、S3心音、僧帽弁逆流の雑音(ただし合併症のない症例では正常所見のこともある)
典型的なパターンは、痛い場所が指一本の範囲ではなく、手のひら全体、さらに象が乗っているような圧迫感という痛み方です。
動いたときに症状が出てくるようであったら、「狭心症」
動いてなくて、寝ているときなどにも症状が出るようなら、「不安定狭心症=心筋梗塞手前」
となります。
なかなか症状が典型的でないパターンも多く、夜中に喉と歯が痛くて来院した高齢女性→心筋梗塞ということもあります。
本人もびっくりするぐらいですので、胸が痛いだけと限らず、しつこい違和感が続く場合は、一度心臓の検査(心電図でとりあえず良いです)を確認しましょう。
特に注意が必要なのは、糖尿病患者、女性、高齢者です
胸部の左右いずれかの刺すような鋭い痛み、または咽頭や腹部の不快感で来院し、結果的に心筋虚血であったということが実際に起こりえるのです。
大動脈解離を示唆する特徴:
- 性質と重症度: 突然発症の引き裂かれるような胸痛(「人生最悪の胸痛」)、特に高血圧患者、二尖大動脈弁または大動脈拡張の既往がある場合
- 放散: 上背部または下背部への放散
- 身体所見: 結合組織疾患(マルファン症候群など)の徴候、四肢の脈拍差(患者の30%、A型>B型)、失神(10%以上)、大動脈弁逆流(A型の40-75%)
- 組み合わせ: 重度の疼痛+突然発症+脈拍差+胸部X線での縦隔拡大で解離の確率は80%以上
典型的なのは「突然発症して痛みがとても強く移動する」ですが、こちらも非典型パターンで見つかることもあります。特に厄介なのは心筋梗塞も合併した大動脈解離です。
救急外来で行う検査がすべて心筋梗塞を示す結果であっても、発症の状況に違和感があるときはCT検査などで解離がないかを確認すべきときもあります。
肺塞栓症を示唆する特徴:
- 身体所見: 頻脈+呼吸困難(患者の90%以上)、吸気時の疼痛
とても厄介な胸痛の一つです。疑うべき特徴的な症状・診察所見がないのが特徴です。
典型的なパターンは「エコノミークラス症候群」とも言われていた、同じ姿勢で長時間動かなかった後に、歩き出そうとして苦しくなるというケースです。
だんだんと息苦しさが出てきたケース、喘息発作と間違えるようなケースもあります。
最終的に他の疾患の除外診断でいきつく場合もあり、かなり難解な病気ともいえます。
検査で判明するのは、重症であれば心エコーでの右室負荷所見ですが、造影CTでようやく判明することも多いです。
食道破裂を示唆する特徴:
- 随伴症状: 嘔吐、皮下気腫、気胸(患者の20%)、片側性の呼吸音減弱または消失
嘔吐後に突然の強い胸痛であれば、可能性が高くなります。とはいえ頻度は稀です。
胸部Xpで疑いをかけることもできるので、疑えばそこまで迷うことはないはずです。
緊張性気胸を示唆する特徴:
緊張性気胸の診断は臨床的に行い、画像検査の前に直ちに治療を開始する必要があります。主な所見は以下の通りです
- 血行動態の変化: 低血圧、頻脈(135回/分以上の頻脈は緊張性気胸を疑う所見)、心停止
- 呼吸器症状: チアノーゼ、呼吸困難、低酸素血症、呼吸停止
- 身体所見: 気管偏位、頸静脈怒張、患側の呼吸音減弱または消失、打診上の過共鳴
気管偏位と頸静脈怒張という古典的な身体所見は、緊張性気胸の診断において感度が低いといわれています。
動物実験では明らかな低血圧が心肺虚脱の直前に現れる遅発所見であることが示されています。
したがって、進行性の低酸素血症、頻脈、呼吸困難などの早期徴候を認識して、速やかに減圧を行うことが重要です。

非虚血性の可能性が高い特徴:
- 鋭い胸痛で吸気時や仰臥位で増悪するもの(急性心膜炎を示唆)
- 数秒間の一過性の胸痛
- 非常に限局した部位に限定される疼痛、臍下または股関節への放散痛
- 体位性の胸痛(筋骨格系を示唆)
- 触診での圧痛または吸気時の疼痛はACSの可能性を著しく低下させる
心膜炎は不整脈を誘発したりすると、急激な経過をたどることもありますが、ほかのものは緊急性が低い状態と判断できます。
指でさせる範囲の痛みや動かしたりすると痛むなどは、胸痛においては少し安心できる所見ともいえます。
行うべき検査:診断的アプローチ
胸痛の患者が来たら、上記のような問診・診察をしつつ、まず心電図を行います。
さらに採血して、高感度心筋トロポニン(hs-cTn)検査などを確認します。
ベッドサイドでできれば、超音波検査も非常に有用です。
ある程度状態が安定していれば、胸部X線やCT検査を行い、危険な胸痛を判断していきます。
臨床的に疑い、病歴と診察、心電図所見、冠動脈疾患危険因子、トロポニンを組み合わせてリスク層別化を行うことも重要です。

結論:命に関わる「危険な胸痛」を最優先で見極める
胸の痛みを感じた際、最も重要なのは「その痛みが今すぐ命に関わるものかどうか」を判断することです。
結論から述べると、「突然の激痛」「冷や汗を伴う」「数分以上続く圧迫感」がある場合は、迷わず救急車(119番)を呼びましょう。
自己判断での「様子見」は、心筋梗塞や大動脈解離といった致命的な疾患を見逃すリスクがあります。
一方、数秒で消える痛みや、指で押した場所だけが痛むといった場合は緊急性が低いことが多いです。
それでも「これまでに経験したことがない痛み」や「1日以上症状が持続している」のであれば、医療機関(内科・循環器内科)を受診しましょう。
今すぐ救急車を呼ぶべき「レッドフラッグ」
医師が診察室で最も警戒するのは、以下の特徴を持つ胸痛です。
これらが一つでも当てはまる場合は、深夜であっても直ちに救急医療を要します。

痛みの質と持続時間
- 「締め付けられるような」「ゾウに踏まれているような」圧迫感: 数分以上(通常15分以上)続く場合、心筋梗塞の可能性が非常に高いです。
- 「バットで殴られたような」「背中まで裂けるような」激痛: 大動脈解離(血管が裂ける病気)の特徴です。
伴う症状(随伴症状)
- 冷や汗、吐き気、顔面蒼白: 痛みだけでなく、これらが伴うのは身体がショック状態に陥り始めているサインです。
- 強い息切れ、意識の混濁: 心臓や肺の機能が著しく低下している証拠です。
様子を見てよい(または通常の受診でよい)胸痛
すべての胸痛が致命的ではありません。以下のような特徴がある場合は、比較的緊急性は低いと考えられます。
- 一瞬(数秒)で終わる痛み: 「チクッとした」という痛みは、肋間神経痛や精神的なもの(心因性)であることが多いです。
- 指で押すと痛む、体の向きを変えると痛む: 痛む場所がピンポイントで特定できる場合は、肋骨や筋肉の痛みである可能性が高まります。
- 食事中・食後に胸が焼ける: 胃酸が逆流する「逆流性食道炎」によく見られる症状です。
- 何日もずっと同じ強さで痛みが続いている: 致命的な疾患は、短時間で悪化するか改善するかのどちらかが多いため、数日間不変の痛みは緊急事態ではないことが多いです。
心臓以外の病気で急激に悪化する可能性が低いパターンですが、症状が初めてであり、持続しているような場合は、日中の医療機関受診を考えてよいと思います
胸痛の主な原因比較表(ベンチマーク)
一般的な胸痛の原因となる代表的な疾患・状態の比較表です。目安として活用して下さい。
| 疾患名 | 痛みの特徴 | 持続時間 | 緊急度 | 主な受診先 |
| 心筋梗塞 | 強い圧迫感、冷や汗、左肩への放散痛 | 15分以上持続 | 極めて高い | 救急車 (循環器内科) |
| 狭心症 | 階段を上るなど動いた時の締め付け感 | 3~5分程度 | 高い | 循環器内科 |
| 大動脈解離 | 背中まで突き抜けるような移動する激痛 | 突然発症 | 極めて高い | 救急車 (心臓血管外科) |
| 逆流性食道炎 | 胸焼け、酸っぱいものが上がる感じ | 数分~数時間 | 低い | 内科・消化器内科 |
| 肋間神経痛 | 鋭い痛み、呼吸や姿勢で変化する | 一瞬~数分 | 低い | 内科・整形外科 |
医師に伝えるべき:診断を早める5つのこと
病院を受診した際、以下の情報を簡潔に伝えると、医師はより早く正確な判断ができます。
どの症状でも基本的になる考えなので、押さえておきましょう。
- いつから?(発症時間): 突然始まったのか、徐々に痛くなったのか。
- どんな痛みか?(性状): 押されるような、裂けるような、チクチクするなど。
- どこが痛いか?(部位): 胸の真ん中か、左側か、背中まで響くか。
- きっかけは?(誘因): 運動中か、安静時か、食事の後か。
- 持続時間は?(経過): 数秒か、数分か、ずっと続いているか。
まとめと次の行動
「胸が痛い」という症状は、体からの最も重要なサインの一つです。
先に挙げた危険な胸痛は短時間でも命にかかわる可能性がある疾患になります。
一方で、胸痛の半数は致命的な状態ではありません。以下の4点を覚えておきましょう。
- 激痛、冷や汗、息切れがあるなら、ためらわず119番。
- 動いた時に痛む、症状が繰り返すなら、日中の循環器内科へ。
- チクチクする、押すと痛いなら、まずは一般内科へ。
- 内科由来の胸痛でないようなら、整形外科など検討
救急車を呼んで、もし大したことなかったら恥ずかしいと考える必要はありません。
医師は、何事もなくて良かった」と確認することも大事な治療と判断します。
それでも、危険な胸痛を見逃してしまうこともあります。
医師・患者双方とも危険な胸痛のことを知っておくと、より安心安全に有効な治療につなげられるのではないかと思います。


情報参照元・一次統計
- 厚生労働省:救急車利用マニュアル(https://www.fdma.go.jp/)
- 日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン
- 日本消化器病学会:胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン
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