「心電図で異常があります」
健康診断の結果説明の時に、このようなことを言われた経験はありませんか。
心電図=心臓の検査で異常→重病
このように思われる方も多いと思います。
健診の心電図検査で「異常あり」と判定されると、多くの受診者は強い不安を感じます。
しかし、実際には治療が不要な「正常範囲内の個人差」も多く含まれています。
今回、内科医の視点から健診でよく指摘される心電図異常について解説していきます。
大前提から、過度に心配しないでよい所見、専門医の診察・追加検査が望ましいものまでお伝えしていきます。
今回第3回目として、「異常Q波」および「ST変化」について解説します。

結論:重要ポイント3点
健診の心電図結果で「異常Q波」「ST変化」「T波異常」と書かれていると、心臓に大きな病気があるのではないかと考えてしまいます。
聞きなじみもない方がほとんどではないかと思います。
結論:「これらの所見=即、命に関わる事態」ではありません
ただし、放置してもいけないサインです。
重要ポイントを3つ挙げます。
- 所見の意味: 「心臓の古傷」や「現在進行形の負担」の可能性を示している
- 主な原因: 過去の心筋梗塞、高血圧による心臓の肥大、あるいは個人差(無害なもの)
- 取るべき行動: 症状の有無を確認し、循環器内科で「心エコー検査」を受ける
たとえ話:心電図は「建物の電気配線レポート」
心電図を「建物の電気配線レポート」に例えてみましょう。
- 異常Q波: 「過去に火事があった跡(焦げ跡)」のようなもの。
- ST・T異常: 「今、電気が不安定で照明がチラついている(過負荷)」のような状態です。
次に細かく解説していきましょう。
異常Q波、ST-T変化(ST変化、T波異常)とは?
心電図の波形にはそれぞれ名前があり、異常が出る場所によって疑われる状態が変化します。
- 異常Q波: 過去に心筋梗塞などを起こし、心臓の筋肉の一部が動かなくなった「痕跡」です。自覚症状がないまま経過している場合もあります。
- ST変化(上昇・低下): 心臓の筋肉に十分な血液(酸素)が届いていない「虚血(きょけつ)」や、心筋への負担がかかっている可能性があります。
- T波異常: 広い範囲でみられる所見です。心臓の筋肉が厚くなる「肥大」や、心筋症、あるいは自律神経の影響などでも変化します。
異常Q波、ST-T変化(ST変化、T波異常)が出る原因は?
心臓そのものの病気だけでなく、生活習慣が背景にあることが多いのが特徴です。
生活習慣病(特に高血圧)だけでも心肥大になります。また心筋梗塞は生活習慣病の蓄積で発症しやすくなっていくため、生活習慣病自体が心疾患の重要な要因となっています
生活習慣病によるものであれば、より厳密にコントロールするように心がけていくことが大事です。
具体的な例は以下のように考えられます。
- 心筋梗塞・狭心症: 血管が詰まったり細くなったりして、心筋がダメージを受けている。
- 高血圧: 長年の高血圧により、心臓が無理をして筋肉が厚くなっている(心肥大)。
- 心筋症: 心臓の筋肉そのものの性質が変わってしまう病気。
- 二次的な影響: 薬の副作用、電解質のバランス異常、あるいは単なる「体型や記録上の誤差」。
異常Q波、ST-T変化(ST変化、T波異常)が見つかったら
まずは「階段を上ると胸が苦しい」「動悸がする」といった自覚症状があるかどうかを確認します。
症状がある場合は、心疾患の可能性が高くなるので早めの専門医受診が望ましくなります。
追加検査としてまず行われるのは心臓の形や動きを直接見る「心エコー(超音波)検査」です。
この検査で本当に治療が必要な心疾患があるかどうかを見ていきます。

具体的な精密検査の手順とその内容
検査の優先順位として、以下のように進められていくことが多いです。
- 第一段階:12誘導心電図の再検査、心エコー検査
- 第二段階:ホルター心電図、運動負荷心電図
- 第三段階:必要に応じて心臓MRI、冠動脈CT、心臓カテーテル検査
具体的に見ていきます。
1. 12誘導心電図の再検査:経時的に同様な変化があるかどうかを確認することが重要。
- 初回心電図で診断できない場合でも、経時的に心電図を記録することが推奨されます
- QT間隔、QRS幅、T波形態、ST部分の詳細な評価を行います
2. 心エコー検査(最優先)
- 肥大型心筋症における心室肥大の評価
- 心筋梗塞後の壁運動異常の検出
- 心機能(左室駆出率)の評価
- 弁膜症の有無の確認
これらで大きな異常がない、もしくは疑われる疾患に不整脈が合併すると悪化する可能性がある場合は、追加で以下の検査を行います。
3. ホルター心電図
- 肥大型心筋症では失神や突然死の原因となる無症候性の不整脈(心室頻拍、心房細動など)の検出に有用であり、全例が適応となります
- 非持続性心室頻拍は突然死の危険因子とされています
- 24時間の記録により不整脈の出現状況や自律神経活動の評価ができます
4. 運動負荷心電図
- 肥大型心筋症では運動中の血圧異常反応(血圧の上昇反応が乏しい、あるいは低下する)の評価が重要で、これは突然死の主要危険因子の一つです
- 運動耐容能低下を評価し、突然死のリスク層別化や治療方針の決定に有用です
- QT延長症候群やカテコラミン誘発多形性心室頻拍など、運動が不整脈イベントの引き金となる疾患の評価に有用です
異常Q波・ST-T変化の臨床的な病的意義の一例
2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドラインでは、
12誘導心電図は突然死との関連があるとされる左室肥大、脚ブロック、ST-T変化などの所見を検出するのに有用とされます。
肥大型心筋症では約75~96%の症例で異常Q波、ST-T変化、高電位など何らかの心電図異常がみられるので、診断の契機となることが多いです。
心筋炎では、R波減高、異常Q波、ST-T異常などさまざまな心電図異常が認められ、ST-T異常が最も多く認められます。
2023年改訂版心筋炎の診断・治療に関するガイドラインでは、心筋炎の時にみられる異常Q波は心臓死や心臓移植イベントの発生と有意に関連していることが報告されています。
不安定狭心症を含む急性冠症候群では、持続性または一過性のST下降やT波異常がみられることがあります。

心電図異常の比較表
| 所見名 | イメージ | 疑われる主な状態 | 緊急性の目安 |
| 異常Q波 | 心臓の「古傷」 | 過去の心筋梗塞、心筋症 | 精密検査は必須(中〜高) |
| ST変化 | 酸素不足・負担 | 狭心症、心筋梗塞、心肥大 | 症状があれば高、なければ中 |
| T波異常 | 電気の不安定 | 心肥大、心筋症、自律神経 | 経過観察〜再検査(低〜中) |
まとめ
今回は「異常Q波」および「ST-T変化」について解説してきました。
過去2回よりも、追加検査=心臓超音波検査をしたほうがいい可能性が高い変化といえます。
ただこの異常が出ても、精密検査の結果、「特に治療の必要なし(経過観察)」となるケースも少なくありません。
慌てないようにしましょう。
生活習慣病が基礎となっている可能性も高く、より自分の生活スタイルを見直すきっかけになります。
また隠れた心臓疾患を見つける絶好のチャンスでもあります。
もし指摘された場合、以下の3点を考えてみましょう
- 専門医の予約: 健診結果を持参して、お近くの循環器内科を予約しましょう。
- 診察前の準備: 受診時に「血圧の数値」や「家族に心臓病の人がいるか」を伝えられるようにしておくとスムーズです。
- 生活習慣病などで主治医がいる:健診結果を主治医に見せて、相談してみましょう
健診で異常Q波やST-T変化を指摘された場合、心筋梗塞や心筋症などの器質的心疾患の可能性はありますが、無症状なら慌てる必要性はありません。
ただ放置は禁物で、12誘導心電図の再検査と心エコー検査を中心とした追加検査も考えましょう。
参考情報源
- 日本循環器学会:循環器疾患診療ガイドライン
- 日本心電学会:心電図検定公式ガイド
- 厚生労働省:e-ヘルスネット(心疾患について)
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