誤解しやすい医学用語:意識障害と失神

誤解しやすい医学用語

病院で使われる言葉の中には、同じ言葉でも医療者が普段使っているニュアンスと患者側が受け取るニュアンスが異なりやすいものがあります。今回の言葉は実は医療者でも、正確に区別できていないこともあるかもしれません。

今回は「意識障害」「失神」について具体例を挙げて解説していきます。状態を表す言葉ですが、意味合いが大きく異なり、原因も変わるので知識として知っておくといいことがあるかもしれません。

意識障害と失神:定義

  • 意識障害覚醒と認知・認識のいずれか、もしくは両方が障害された状態
  • 失神一過性の脳虚血により生じる、急激で一時的な意識消失発作、自然に速やかに回復する状態

両方とも脳に何かしらのダメージがあることで起こりますが、意識障害はすぐには改善しない可能性が高いこと、失神は自然に回復する(した)状態で元に戻ることまでが定義です。

意識障害:主に脳の機能にダメージがある。原因は血流だけではない。

意識障害の定義にある覚醒とは脳幹の機能の一つであり、認知・認識は大脳の機能の一つを表します。この2つのどちらかが、ダメージを負い機能が低下することを意識障害といいます。気を失わなくても、理解できない発語をしたり、おかしな行動をしても意識障害と表現します。

意識障害の原因:あ、い、う、え、おチップス(A,I,U,E,O,TIPS)

原因は様々な分野にまたがって起こります。脳だけの病気ではないことも多いのです。

  • あ(A):アルコール(alcohol)
  • い(I):インスリン(insulin)=低血糖、高血糖
  • う(U):腎不全(Uremia)
  • え(E):電解質(Electrolytes)脳症(Encephalopathy)内分泌(Endocrinopathy)
  • お(O):酸素(Oxygen)低酸素
  • T:外傷(Trauma)、体温(Temperature)高体温、低体温
  • I:感染症(Infection)
  • P:ポルフィリア(Porphyria) 、精神的(Psychiatry)、毒(Poisoning)
  • S:脳血管障害(Stroke)、てんかん(Seizure)、ショック(Shock)

意識障害の原因は?と聞かれたら、呪文のように覚えることもあるこの表。医者のはじめのころに叩き込まれるものです。脳の病気以外のほうが多いとも言えます。これらが要因で、脳幹・大脳にダメージを与え機能低下することで起こります。

意識障害の評価:JCS、GCS

意識障害をみたら、この2つのアルファベット群で尺度を決めています。

JCS:主に覚醒を中心に評価 目を開けている>刺激しないと目を開けない>何をしても目を開けない の順番で悪いと判断します

GCS:覚醒と認知・認識をみています。覚醒は目の開け方具合、認知・認識は発語の有無・意味や手足の動きが指示通りできるかも含めて評価します。

失神:一時的な脳への血流低下=すぐに戻るはずなので正常な状態になったことも大事

失神は一時的な脳への血流低下が要因です。脳自体は右と左の頸動脈から血流が回っており、脳の一部の血管を止めたからと言って、全体の脳の血流がすぐになくなるわけではありません。そのため、失神=脳の病気という可能性は実はかなり稀なのです。

失神の原因:全身の血流が低下した時

脳に回る2つの血管の血流が同時に低下した=全身の血流が低下した時失神しやすくなります。特に頭が体より上にあるときに起こりやすいです。倒れた場合、頭が体と水平になるため、また血流が頭のほうに戻りやすい姿勢になるため気が付くというのがよくあるパターンです。

全身の血流低下の原因は、心臓の働きが急に悪くなる(不整脈)か血液が急に減る(貧血、急激な脱水)、痛みなどの強い刺激でうまく血液が全身から戻らなくなった(迷走神経反射)といった要因です。

意識障害の原因と比べて、原因となるのが少ないこと、危険な病気も少なめなのがわかると思います(注意しないといけない原因はある)。

失神の評価:原因を探るには

失神であれば、病院到着時は正常まで戻っているはずです。確認すべき危険な病気は心臓=不整脈のチェックになります。さらに血液の量を見るために血液検査をして、失神が起きた状況を確認します。おなかが痛くて下痢したら、周りが白くなって、倒れた なら、下痢による脱水と痛みによる迷走神経反射が濃厚になります。不整脈の場合は当日に確定は難しいこともあり、経過を見ていく必要があるかもしれません。

まとめ

  • 意識障害:すぐに戻らない異常 原因は多岐にわたる 重病なことも多い
  • 失神:元に戻っているまでが定義 原因は血流のながれが悪くなったこと 不整脈や貧血でなければ、そこまで心配いらないことが多い

少し難しいお話になりましたが、ちょっとしたことでも、かなり意味合いが違うので知っておくとよいかもしれません。

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