「便を食べると病気が治る」嘘のような本当の話を消化器内科医が解説します。

医療

便を食べると治る病気がある。〇か×か

こんなこと聞かれたら皆さんは、どう思いますか?

「そんなことあるわけないでしょ」と、「×」を選択する人が多いのではないかと思います。

実は「〇」が正解

便を食べるという表現はやや誇張ですが、「糞便移植」という治療法が実際に研究されています。

ある特定の腸炎の原因は腸内細菌によるものとわかってきており、

ほかの糞便から腸内細菌を丸ごと移植するという考えから治療法の一つとして検討されていました。

驚くほど良い結果も出ているものがあるので、今回ご紹介していきます。

糞便移植の歴史・手法・治療効果の今

歴史:4世紀の「黄龍湯」から「医薬品」へ

糞便移植の歴史は驚くほど古く、4世紀の中国の医師、葛洪(葛洪)が食中毒や重症下痢の治療に便の抽出液「黄龍湯(おうりゅうとう)」を用いたのが最初とされています。

17世紀には獣医学において、健康な牛の胃の内容物を病気の牛に与える「反芻(はんすう)移植」が行われていました。

現代医学において脚光を浴びたのは1958年、アイゼンマン博士らが偽膜性大腸炎(現在のCDI)の患者4名に対し、

注腸(肛門からチューブを入れて、大腸の中に入れていく)による移植を行い劇的な回復を見たことが転機となりました。

2013年には世界初のランダム化比較試験で、偽膜性大腸炎に対して標準的な抗生剤治療を圧倒する成績を収め、

2020年代に入ると米国で相次いで製剤化・承認されるに至りました。

糞便移植による期待される効果

糞便移植をたとえるなら、「荒れ果てた森(乱れた腸内細菌叢)に、健康な山の土(ドナーの細菌叢)をまるごと運び込み、森を再生させる作業」です。

健常な便の中にある腸内細菌叢を、病気になっている大腸にうつし、健常な腸内環境を拡げていくことで病気が治るということを期待して行われます。

実際に行われる場合の一例

  1. ドナー選定(最も重要): 厳格なスクリーニング(感染症、生活習慣、精神疾患の有無等)を通過した健康なドナーから便の提供を受けます。
  2. 調整: 提供された便を特殊な溶液で懸濁し、ろ過して細菌成分のみを抽出した「菌液」を作成します。
  3. 移植: 大腸内視鏡や経鼻チューブ、あるいはフリーズドライ化したカプセルで患者の腸内に導入します。
  4. A-FMT(日本独自の進化): 順天堂大学等が提唱する手法。移植前に3種類の抗菌薬を投与し、一度「腸内を更地」にすることで、ドナーの菌が定着しやすい環境を作ります。

治療効果の現在:感染症から全身疾患へ

現在、FMTが最も劇的な効果を発揮するのは「再発性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)」です。

CDIとは?:

偽膜性大腸炎と呼ばれる大腸炎です。原因となる腸内細菌の名前が「クロストリディオイデス・ディフィシル」といいます。

悪玉菌の1つですが、そこまで強い影響力はなく、健常者の大腸にも含まれます。

通常な状態ではほかの腸内細菌のほうが多く、影響も大きいので特に害になることはありません。

しかし、何かしら別の病気で抗生物質を使ったとき、今まで勢力が強かった善玉の腸内細菌も一緒に減ってしまい、

結果的に抗生剤に耐性のあるクロストリディオイデス・ディフィシルの数が増え、大腸炎を起こすというものです。

標準的な抗生剤治療を行っても再発を繰り返す難治性の場合、FMTによる治療が検討されます。

現在その治癒率はなんと90%を超える結果だったと報告されています。

まだ実際に行うには、ドナーをどう選定するのか、投与方法はどうするのか、倫理的な面はどうするのか、などハードルは多くあります。

この病気で、他の治療手段がないような状況であれば、選択してよい方法といえるでしょう。

潰瘍性大腸炎(UC): 2025年1月の最新報告(順天堂大学)では、A-FMT療法により患者の約46%が寛解に達しました。

これは偽薬群(20%)に対して圧倒的な有意差であり、新たな治療の柱として期待されています。

単純な便移植のみではなく、投与前に抗生剤を使用して患者の中にある大腸内の腸内細菌を可能な限り少なくしてから、便移植するという方法でした。

ただ、これより前の潰瘍性大腸炎に対する報告は治療効果ありとする報告と、効果がなかったという報告が両方あり、まだはっきりした見解は得られていません。

将来的に治療選択の1つになる可能性があるというところでしょう。

今後の展望: 腸内細菌は免疫、代謝、精神(脳腸相関)に深く関与しているため、現在は「自閉症スペクトラム障害」「パーキンソン病」「がん免疫チェックポイント阻害剤の感受性向上」「肥満」など、多岐にわたる領域で治験が進んでいます。

大腸疾患だけに限らず、幅広い疾患で治療選択の1つとして試みられており、同時に投与方法やドナーに選択にも統一した見解が得られていくはずです。

実用化までもう少しかかりそうですが、新たな治療の1つに数えられるかもしれません。

FMTの主要手法とベンチマーク

手法別比較

手法メリットデメリット成功率(CDI)
大腸内視鏡下腸壁に直接散布でき、確実性が高い身体的負担、事前洗浄が必要約90%〜
経口カプセル非侵襲的(飲むだけ)、外来可能多数のカプセル服用が必要な場合あり約80〜90%
経鼻小腸灌流胃を通過せず小腸へ直接届けられるチューブ挿入の不快感約80%〜
注腸(エネマ)簡易的でリスクが低い保持が難しく、到達範囲が限定的約60〜80%

ベンチマーク(主要組織・企業)

組織・企業名特徴・強み現在のステータス
順天堂大学A-FMT(抗菌剤併用)の世界的先駆者潰瘍性大腸炎で45.9%の寛解達成
メタジェンセラピューティクス日本発のベンチャー。ドナーバンク運営腸内細菌叢療法の社会実装を推進
Seres Therapeutics (米)世界初の経口FMT製剤「VOWST」を開発FDA承認済み、市販化
Ferring Pharmaceuticals (瑞)直腸投与型製剤「REBYOTA」を開発FDA承認済み、実臨床で普及

まとめ

糞便移植は、単なる「便の移植」から「精密な腸内エコシステムの再構築(リブート)」の手段として考えられています。

難治性の感染症(CDI)に対して90%以上の治癒率を誇るほか、2025年には日本国内でも潰瘍性大腸炎に対する高い有効性が証明され、標準治療化に向けた研究が進行中です。

まだ実際に行われるようになるまで課題もありますが、腸内細菌を大きく整える方法として、有効になっていく可能性が高い方法です。

現在腸内細菌を整えるのに、役立てるサプリメントも多く販売されています。自分の腸内細菌環境を整えておくのも、病気の予防になるかもしれません。

善玉元気

参考資料

  • 順天堂大学プレスリリース(2025年9月):潰瘍性大腸炎に対するA-FMT療法の有効性証明。
  • PMC/NIH (2025/2026 論文):CDIに対するFMTの成功率統計。
  • FDA承認情報:VOWST (Seres Therapeutics)、REBYOTA (Ferring/Rebiotix)。
  • 日本内視鏡学会 診療ガイドライン:FMTの適応と安全性に関する記述。

コメント

タイトルとURLをコピーしました