消化器医が考える「良い内視鏡医とは?」

医療

「胃カメラや大腸カメラ、そろそろ受けなきゃいけないのは分かっているけれど……やっぱり怖いし、痛そう」

そう思って、ついつい検査を先延ばしにしていませんか?

内視鏡検査(胃カメラ・大腸カメラ)は、がんの早期発見においてこれ以上ないほど強力な武器です。

しかし、その一方で「医師の腕」によって、検査中の苦痛や診断の精度に大きな差が出るのも事実です。

では、私たち消化器内科医の視点から見て、「本当に信頼できる、良い内視鏡医」とは一体どのような医師を指すのでしょうか?

単に「手が早い(検査が短い)」だけが名医ではありません。

この記事では、専門医の立場から、患者さんが後悔しないための「内視鏡医選びのポイント」を徹底的に解説します。


内視鏡検査の「質」を決める3つの柱

良い内視鏡医を評価する基準は、大きく分けて「技術(苦痛の少なさ)」「観察力(見逃しのなさ)」「対話(安心感)」の3つに集約されます。

どれか一つが欠けても、良い検査とは言えません。

例えば、どれだけ痛くなくてもがんを見逃してしまえば検査の意味がありません。

逆に、どれだけ診断が的確でも、トラウマになるほど苦痛が強ければ、患者さんは二度と検査に来てくれなくなります。

内視鏡検査でスコープを実際に操作しているのは医師一人ですが、その周りに看護師・検査技師が複数人で介助・サポートをしています。

患者さん本人だけではなく、周りのスタッフにもうまく対話できているかも重要です。


技術面:なぜ「あの先生の検査」は楽なのか?

「内視鏡が上手い」と聞くと、多くの人は「スピード」を想像するかもしれません。

しかし、真に技術が高い医師の特徴は「愛護的(優しく丁寧)な操作」にあります。

苦痛の少なさは「空気の入れ方」と「軸」で決まる

特に大腸カメラにおいて、苦痛の最大の原因は「腸を無理に伸ばすこと」「空気を入れすぎること」の2点です。

上手い医師は、腸を伸ばさず、手前にたたみ込むようにして進める「軸保持短縮法」という技法を用います。

また、検査中に炭酸ガス(空気に比べて吸収が数百倍早い)を適切に使用し、お腹の張りを最小限に抑えます。

大腸の形、長さは個人差があるので、どうしても痛みを伴ってしまう方もいます。

そのような人にもできるだけ痛みの少ない方法(体の姿勢、麻酔薬の量など)を模索して、検査を進めるのも技術の一つです。

胃カメラでの「喉」の通し方

胃カメラの場合、最も辛いのは「オエッ」となる咽頭反射嘔吐反射です。

良い医師は、スコープが喉を通過できるタイミングを熟知しており、患者さんの嚥下(飲み込む動作)や呼吸に合わせて滑り込ませます。

この「一瞬の合わせ」ができるかどうかが、つらくない胃カメラにつながる技とも言えます。

人間が本気でのどを締め付ければ、締め付けている間はどんなにうまい人でものどから食道にカメラが進むことはありません

この状態で無理に入れようとすれば更なる苦痛から、よりのどが締め付けられる「悪循環」になります。

麻酔をしても、反射的に本能でのどを締め付けてしまう人もいます。

このような時は、変に強く麻酔をせず、声掛けなどで患者さん側にも協力(のどの締め付けを緩める、飲み込んでもらう動作をするなど)してもらい、すすめていくほうがかえって楽に検査ができます。

楽に胃カメラができるかどうかは、患者さん側の協力も得ることができるかどうかにかかっています。そこに配慮できるかどうかも内視鏡検査医の「対話技術」といえます。


観察面:「見逃さない目」を持っているか?

内視鏡検査の究極の目的は、「早期がんの発見」です。

「盲点」を知り尽くしている

胃や大腸には、ヒダの裏側や急カーブの先など、どうしても死角(ブラインドスポット)ができやすい場所があります。

良い内視鏡医は、その「見えにくい場所」にこそ病気が隠れていることを知っています。

スコープを反転させたり、患者さんの体の向きを変えたり、水を撒いて汚れを落としたりしながら、隅々までしつこく観察する医師は信頼に値します。

粘膜の「わずかな違和感」を捉える

早期がんは、ベテランの医師でも見逃すことがあるほど、周囲の正常な粘膜と似た顔をしています。

  • 色のわずかな違い(赤み、白っぽさ)
  • 血管のパターンの乱れ
  • 光の反射の歪み

内視鏡画像の中にある病変に対して、その全周囲の外側から中心に向けて観察し、

前述したパターンを、NBI(特殊光)や拡大内視鏡を駆使して「がんかどうか」をその場で考察する能力が求められます。


鎮静剤(麻酔)の使い方のさじ加減

最近では「眠っている間に終わる検査」を希望する方が増えています。

これは患者さんにとって大きなメリットですが、良い内視鏡医は「安全管理」に一切の妥協をしません

「ただ眠らせればいい」わけではない

鎮静剤は呼吸を浅くするリスクがあるため、検査中は常に血中酸素濃度をモニターし、

万が一の事態に備えて拮抗薬(目を覚まさせる薬)や蘇生設備を完璧に整えている必要があります。

また、患者さんの体格や年齢、お酒の強さなどを考慮して、オーダーメイドで薬の量を調整する細やかさも「良い医師」の条件です。


説明とアフターケア:検査後の「納得感」

検査が終わった後、どのような説明を受けるかで、その医師の誠実さがわかります。

写真を見せながら、言葉を選んで説明する

「異常ありませんでしたよ」の一言で終わらせず、実際の写真を見せながら、「ここが食道です」「ここが胃の出口です。綺麗ですね」と具体的に説明してくれる医師は、自信を持って観察を行った証拠です。

「次回のタイミング」を明示する

「次は1年後でいいですよ」「今回はポリープを取ったので、次は半年後に確認しましょう」と、将来のビジョンを明確に示してくれる医師は、患者さんの健康寿命を真剣に考えています。


【チェックリスト】良い内視鏡医・クリニックを見極めるポイント

これから検査を受ける場所を探すなら、以下の項目をホームページなどでチェックしてみてください。

  1. 専門医資格があるか: 「日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医」であることは、最低限の知識と経験の証明です。
  2. 症例数(実績)が公開されているか: 年間の検査数が多いほど、様々な症例を経験しており、トラブルへの対応力も高い傾向にあります。
  3. 設備が最新か: 高精細なハイビジョンモニターや、がんを発見しやすくする特殊光(NBIやBLIなど)を導入しているか。
  4. 内視鏡洗浄の徹底: 感染症を防ぐため、ガイドラインに沿った洗浄・消毒が行われているか(これは医療機関として基本中の基本です)。
  5. 口コミの「中身」: 「痛くなかった」という感想だけでなく、「説明が丁寧だった」「安心できた」という声が多いか。

まとめ:内視鏡医は、あなたの「お腹の守護神」

内視鏡検査は、確かに少しハードルの高い検査かもしれません。

しかし、「この先生なら任せられる」と思える主治医を見つけることができれば、そのハードルは驚くほど低くなります。

良い内視鏡医は、スコープを通してあなたの体と対話しています。

小さな病変も見逃さず、かつ可能な限り優しく、そして検査後にはあなたの不安を解消してくれる。

そんな医師との出会いが、10年後、20年後のあなたの健康を支えることになります。

もし、これまでに辛い思いをして内視鏡を避けている方がいたら、ぜひ一度、今回挙げたポイントを基準に新しい病院を探してみてください。

「こんなに楽なら、もっと早く受ければよかった」と思える日が、きっと来るはずです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました