皆さんも胃が痛くなる経験はありませんか。緊張やストレス、食べ過ぎたりと自分でも経験しやすいと思います。ただ、その痛みは本当に胃からなのでしょうか?
皆さんが思う胃の位置=みぞおち、心窩部あたりは、痛みからみると実は複雑な場所になっています。体の中心に近く、痛みの神経が集中しているためです。本当に胃が痛みの原因なのか?今回はそのあたりを解説したいと思います。
心窩部が痛い 原因は?
この場所が痛む原因は、以下のように幅広い領域にわたります。まだこれ以外の原因もあり得ます。
- 消化器系:胃・十二指腸潰瘍 胃炎 胃がん 胆石・胆のう炎 すい炎 虫垂炎 逆流性食道炎
- 循環器系:狭心症・心筋梗塞 (特に下壁梗塞) 大動脈解離
- 呼吸器系:肺炎、胸膜炎(下肺中心)
- 精神系:心身症
心窩部の痛み メカニズム
心窩部には真下にある胃・腸管の他にもいろいろな臓器が隣接しています。頭側には、肺や心臓があります。特に心臓由来からくる痛みは注意が必要で、鈍い痛みと嘔吐を伴いやすく胃腸炎と間違えられやすいです。通常は左の胸全体に痛みを感じやすいのですが、心筋梗塞の場所が下壁(心臓の下の壁)だと、心窩部だけが痛くなる場合もあります。高齢・糖尿病の女性に多い印象があり、注意が必要です。
さらに直接の痛みだけでなく、関連痛というメカニズムがあります。内臓からの痛み刺激が脊髄に伝わるときに、皮膚や筋肉からの痛み感覚が入る場所と同じところに入っていきます。そのため脳がどこから来た信号かを誤認してしまい、同じ領域に入る皮膚・筋肉が痛みの原因と勘違いすることがあります。
心臓下壁や胆のう、すい臓、腎臓などの臓器は、主にTh5-9の脊髄レベルの神経に痛みを送っており、この場所は心窩部の知覚神経がつながっている場所と同じところにあります。そのため、幅広い内臓の痛みが、まず心窩部の痛みとして自覚されることが起こります。
虫垂炎も病変自体は右下腹ですが、痛みの伝わる脊髄はTh10あたりにあります。Th9に影響を与える場合は、まず心窩部痛として出現し、症状が悪化し右下腹部中心の組織に刺激を与えるようになると右下腹部痛が強くなっていきます。このため、虫垂炎では痛みの移動が起こります。
胃の痛みと表現するのは危険なこともある
前にのべたように、「胃が痛い」と心窩部痛を表すのは危ない場合があります。特に症状が強く、飲食ができなくなったり、数日以上痛みが持続しているときなどは、危険な病気が原因である可能性があります。症状の変化もポイントになります。痛みの移動がある場合は、移動した後の場所に病気が隠れています。
検査として胃カメラで異常がなくても、あくまでその検査内でわかる範囲の異常がないということであり、心窩部の痛みは心臓から下腹部まで幅広く原因が隠れている可能性があります。腹部レントゲンでは本当に一部の疾患しかわからないため、レントゲンで異常なしもそこまで大きく安心はできない場合があります(別記事:腹部レントゲンで何がわかるもよろしければどうぞ)
心臓の疑うなら心電図などの循環器系の検査、虫垂炎を疑うなら腹部超音波検査やCTまで必要になるでしょう。
胃の痛みは、命にかかわるものから心配がないものまで、幅広い病気の可能性があります。病状の変化なども覚えておき、症状が持続していたり、痛み以外の症状が出て気になるようなら病院にかかるようにしましょう。


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