「点滴すると元気出るんだよ」
「点滴だけで生きていけるから食べなくていいよ」
「点滴のスピードってどうやって決めてるの?」
「点滴のスピードの測り方は?」
と思っている人や疑問がある人はいませんか?実際はどうなっているのでしょうか?
医者の立場から解説してみます。
結論
- 点滴だけで健康的に過ごすことができるのは、基本的には不可能です。
- 点滴で補えるのは、主に脱水症(水分と電解質の調整)だけです。
- 点滴のスピードは、時計を見ながら、何秒に1滴などの滴下数で調整している。
理由をこの先に述べていきます。
点滴の成分とは
点滴の基本成分は、ナトリウム、カリウムをはじめとした電解質と水分のみであり、ここにブドウ糖、アミノ酸、ビタミンなどを混ぜたものがよくつかわれます。
よくイメージされる腕からの点滴では、血管は細いため、電解質と水分だけなら投与できますが、
ブドウ糖やアミノ酸、脂肪分の1日量を入れることは、血管への刺激も強く難しいのが現実です。
何とか可能にするには、中心静脈と呼ばれる太い静脈に点滴のチューブ(カテーテルと呼ばれます)を入れて、太い血管に流れるようにすると、より成分が濃い点滴を入れることが可能です。
それでも1日の食事量と同じ糖分、アミノ酸、脂肪を入れるのはかなり大変です。
1日に必要なエネルギー量、たんぱく質、脂質の量は?
健康成人60kgを例にすると
- エネルギー(ブドウ糖中心):25~30kcal/kg/日=約1500~1800kcal
- たんぱく質(アミノ酸):1.0~1.2g/kg/日=約60~70g
- 脂質:総エネルギーの20%目安=約30g
- 水分:30-35ml/kg/日=1.8L~2.1L ただし水分は過剰でも腎臓が正常なら調整可能
- ビタミンや微量元素を少々。
これを点滴で入れようとすると、どんなに濃い濃度でもブドウ糖以外は10%-20%ぐらいに希釈されたものになるため、
アミノ酸だけで600-700ml、脂質で300ml程度の投与量になります。
ここにブドウ糖でのエネルギー補充と電解質・水分、ビタミンなどを補充すると、
最低でも2500ml/日以上の水分量を入れてようやく1日3食食べている人と同じ計算になります。

点滴のスピードは? どうやって測っているの
点滴のスピードは「何秒に1滴」、「何滴/分」で調整されています。
機械で決められた速度に設定して投与することもできますが、まだアナログに時計と点滴の滴下数をみて決めていることが多いです。
前提として、使われている点滴セットは成人用と小児用・微量用の2種類であります。
成人用は通常20滴=1ml、小児・微量用は60滴=1mlと決められています。
60ml/時間(hr)=1440ml/日を入れる場合を考えてみましょう。
成人だと1ml=20滴に相当するので、1時間当たり 60×20=1200滴を入れることになります。
1分あたりでは1200÷60=20滴/分となるので、3秒で1滴投与する計算になります。
3秒で1滴滴下するように、時計を見ながら調整していきます。
このスピードを実際に見ていると、ちゃんと投与されていてもかなり遅く感じるかもしれません。
投与されている側も「点滴が落ちてない」と思うことも多そうですね。
仮に1日2000ml水分=1日に必要な維持するための最低減の量を入れるようにしても、点滴のスピードは約2.3秒に1滴の計算になります。
これでもかなりゆっくりですね。水分を一口飲むとしても、大体20mlほど飲んでいるといわれています。
点滴だと20ml→20×20滴=400滴分です。
この量を点滴で入れるのは、約2.3秒に1滴計算の速度で、15分程度かかることになります。
15分かけて一口飲むのは、結構大変です。
本当にちびちび飲んでも、点滴よりも速いスピードで体内に入る計算になるのです。
腸管吸収(経口摂取)のメリット
大変だけどどうにかなりそうじゃないと思った方もいるかもしれません。
しかし、どうしても点滴では代用できないことが腸管吸収(経口摂取)にはあります。
- 点滴に食物繊維や植物由来の抗酸化物質などは入っていない(点滴での製品がない)。
- 食事を吸収するときに消化管や肝臓を通過する。この時にホルモン分泌(血糖調整に使うインスリンや腸管を動かすホルモンなど)や腸内細菌との関連が起こり、消化管の免疫作用が活性化する。この免疫機能が全身の免疫とも関連し、健康の維持に役立っている。
さらに中心静脈カテーテルには特有のデメリットがあります
- カテーテルに沿って、細菌感染がおこる
- 血管の中に直接濃い栄養剤があると、肝臓がうまく代謝しきれずに肝臓に負担がかかる
- そもそも中心静脈カテーテルの管理は医療者が必要(病院での管理が前提)
結局どっちがいいの
どちらも選択できるのなら、迷わず経口摂取による栄養を選びます。
計算上点滴で同じだけ投与できたとしても、点滴にまだできていない成分の摂取、腸管免疫の維持、カテーテル合併症の回避などもあり、経口摂取と全く同じにするというのは不可能だからです。
経口摂取が1週間以上全くなくなると、徐々に腸管上皮が委縮し、腸管機能低下が出現します。
こうなるとまた食事を再開しても、吸収する力が落ちていることから下痢になってしまったりと、吸収を回復するのにも時間がかかるようになります。
消化管の病気で使えない場合は難しいですが、使えるなら腸管を使うが現在の基本的な考え方です。
以上が点滴だけで健康に生きていくことは不可能な理由でした。
それでも点滴でよくなったということも経験しますが、それは脱水症の改善によるものになります。
もしくは、点滴したことによる満足感で改善したことも経験します。それはそれで、良いことではありますが。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
点滴をする意味、限界を知っておくことで、自分にとっていま必要なのかどうかを考えられる一助になれば幸いです。
点滴と経口薬についても別記事で解説しています。よろしければそちらもご覧ください。


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