内科医が解説する誤嚥性肺炎 ~肺炎の中で最もやっかいなもの~

医療

2023年の日本人の死因ランキングで、男女ともに5位にランキングされている「肺炎」

その中で、大きな割合を占めているもの「誤嚥性肺炎」です。

「肺炎なんだから治療できるはずでは?」

「高齢者に起こるから、しょうがいないでしょ」と思っている人も多いのではないかと思います。

誤嚥性肺炎は、単純に肺の感染症というものにとどまらず、全身の衰えと密接に関連して発症するものです。

進行を避けられない要因=老化が背景にある疾患であり、悪性腫瘍や間質性肺炎といった特殊な慢性進行性の肺炎と同じものと考えるべきでしょう。

今回、「誤嚥性肺炎のホントのところ」を生存率を中心に解説していきたいと思います。

誤嚥性肺炎とは:

誤嚥性肺炎とは、食べ物・唾液・嘔吐したものが誤って気道に入り(誤嚥)、肺に炎症を起こす肺炎で、

主に高齢者や脳梗塞などで嚥下機能が低下した人に多いのが特徴です。

発熱、咳、痰、食欲低下などの症状で発症し、抗生物質の投与で改善することが期待できます。

ただし、元の原因が高齢、脳梗塞、衰弱など改善できないものが要因であることが多く、繰り返し発症することでさらに衰弱するということを繰り返していきます。

誤嚥性肺炎の実際の死亡率は?

誤嚥性肺炎の予後は、単なる「肺の感染症」ではなく全身の衰え(フレイル)」の指標とも言えます。

以下のリストのように急性期の生存率は比較的高め=一度は抗生物質などで肺炎自体の改善は可能です。

一番の問題は再発率が高いということです。1年生存率は約50%まで低下しています。急性期の治療だけでなく、その後の生活の質と再発予防が生存期間を左右するといえます。

死亡率の実態:

  1. 急性期死亡率: 入院患者の約10〜20%が急性期に亡くなる。
  2. 1年生存率の壁: 退院後も再発を繰り返し、1年後の生存率は約5割に留まる。
  3. 生存の鍵: 抗生剤治療以上に「飲み込む力」と「栄養状態」の維持が重要
  4. ある研究(浜松医科大学など)によると、誤嚥性肺炎で入院した高齢患者の退院後の生存期間中央値は約1年退院5年後の生存率は約13%という非常に厳しい結果が報告。

誤嚥性肺炎の予後(特に高齢者)がなぜここまで悪いか

  • 背景にある問題: この低い生存率は、肺炎そのものの重症度だけでなく、以下のような背景が複合的に絡み合っていることが理由です。
    • 高齢・基礎疾患: 多くの患者さんが高齢で、心臓病、糖尿病、脳血管疾患などの基礎疾患を抱えています。
    • 繰り返す誤嚥: 根本的な原因である「飲み込む力の低下(嚥下機能障害)」が改善しない限り肺炎を繰り返すリスクが常にあります。繰り返すたびにさらに体力や肺機能が低下していきます。
    • 全身状態の悪化: 肺炎をきっかけに寝たきりになったり、食事が摂れなくなって栄養状態が悪化したりする「負の連鎖」に陥りやすい点も予後を悪くする大きな要因です。

比較:特発性間質性肺炎(特に特発性肺線維症:IPF)の予後

肺炎の中で特殊なタイプになりますが、慢性的に進行する原因不明の肺炎の代表です。

治療法が少なく、肺炎の中で予後が最も悪いタイプの1つです。

急性増悪したときの致死率は誤嚥性肺炎よりも高くなりますが、長期生存期間では誤嚥性肺炎よりも長くなっています。

肺炎という病気の中では、誤嚥性肺炎が最も予後が悪い肺炎といっても過言ではないものと言えます。

  • 短い生存期間: 最も頻度が高く予後不良な「特発性肺線維症(IPF)」の場合、診断確定後の生存期間の中央値は3〜5年とされています。5年生存率は報告によって幅がありますが、30〜40%程度とされることが多いです。10年生存率は12.7%と報告されています。
  • 「ほとんどのがんより予後不良」: 進行性に肺が硬くなっていく病気であり、その予後の悪さから、肺がんなどの悪性腫瘍と比較されることもあります。
  • 急性増悪の恐怖: 急性増悪が起こることもあり、非常に致死的な状況になりやすいものです。一度起こすと、その後1〜2ヶ月で亡くなるケースも少なくありません。
  • 参考までに癌の5年生存率👇

肺がんの5年生存率と間質性肺炎の5年生存率は同じ。誤嚥性肺炎はこの数値よりも悪い結果になっています。数値上は膵臓癌と同等です。

まとめ

誤嚥性肺炎は、肺炎の中で最も厄介な間質性肺炎よりも実は生存率が悪い肺炎といえます。

両者の「厄介さ」は質が異なります

  • 特発性肺線維症は、肺そのものが不可逆的に壊れていく進行性の病気としての「厄介さ」があり、診断されてからの余命が短いという特徴があります。
  • 高齢者の誤嚥性肺炎は、加齢や基礎疾患を背景に、肺炎を繰り返しながら全身状態が徐々に低下していくという、長期的な視点で見た場合の生存率が極めて低いという「厄介さ」があります。

誤嚥性肺炎の厄介さは、

数か月以内で再発しやすいこと、

再発を繰り返すごとに体力も低下→さらに誤嚥を起こしやすくなるという「負のスパイラル」に陥りやすいことです。

根本原因を改善することが不可能なこともあり、「肺炎」という病名はついていますが、実態は「老衰の自然経過」のことが多いのです。

どのようなサポートが望ましいかは、個別ケースで異なります。

できれば、肺炎を繰り返す前に本人・家族・医療関係者などと今後どのようなサポートを望むかよく話し合っておくことが重要です。

末期がんの診断がついたら、その先のことを考える人が多いと思います。

それと同じで、「誤嚥性肺炎が起きた=体の終末期が近づいてきた」として、その先のことを考えてみてはいかがでしょうか。


肺炎の種類別・予後比較表

日本の公的統計および主要研究に基づいたベンチマーク比較です。

比較項目誤嚥性肺炎市中肺炎 (CAP)院内肺炎 (HAP)
主な対象層高齢者・要介護者全年齢(健康な人含む)入院中の患者
急性期死亡率10〜22%3〜10%15〜30%
1年生存率約50%約80〜90%約40〜60%
再発リスク極めて高い低い中程度
主な死因全身衰弱・再発呼吸不全原疾患の悪化

情報源・調査詳細

  • 厚生労働省: 令和5年(2023年)人口動態統計(死因順位の確認)
  • 日本呼吸器学会: 成人肺炎診療ガイドライン2024

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